「『ローレライ』? なにこれ?」
「ただのキャバクラ」
「え、いや、だから夜遊びする歳じゃ―――」
「安心しろや、強盗や女さらいな真似はしねーよ」
「じゃあ、なん為に?」
あまり人気が少ない路地裏に、なん店舗かの夜店の一つ『ローレライ』というキャバクラに、なぜ矢島はこの店に足を運んだのか真堂には分からずにいた。そして大体犯罪が起きない事では安心したが、拳銃を持っている時点から何かをやらかすのは、まず間違いないだろう。そこであまりにも事情を飲み込めていない真堂は、再び矢島に問おうとする。
「さっき言ったようにケジメだよケジメ、そうすぐにぶっぱなさねえから、安心せえや。とにかくまずお前はここで見張ってな」
「うん……」
素直に承諾した不利をして、矢島の隙を狙って拳銃を取り上げる作戦に出ようとしていたが、またさっきみたいに射たれたら、ひとたまりもないだろうと思った真堂。このままどうするかを考え始めた。その結果『とりあえず逃げる』という考えに至ったのである。
「………」
ガチャ
「……行ったかな?」
矢島が階段を登った後に、店のドアを開けて中に入って行ったのを見計らって、逃げるのだが―――
バンッ
「くーっ、ぬおおぉー! やっぱほっとけねー!」
数秒で考えついたものの為か、全速力で逃げている途中で店の中から銃声が聞こえた時に真堂は、すぐに考えを改め始めた。そのことで大急ぎで逃げるはずが大きく曲がりくねり、店の方えと戻っていく。
「やじまぁー!」
やはりこのまま逃げだしても後味が悪いのだけなのは、かなり嫌だったのであろう。この時点から真堂はヤケクソになり始め、店の方えと向かってみる。すると次々と何人かのキャバ嬢が店から出て行くのが確認できた。
(あっ! やっぱなにかやらかしたんだ。急がないと!)
それを確認したうえで真堂は、これ以上面倒事が増えないうちに、急いで矢島を連れて帰ろうと店に入った。
「矢島……あ! や、矢島。その人……」
ドアを叩きつけて入って行くと、そこには銃を向けられ、急いでソファーから降りた様子で脅えている見知らぬ男がいた。そして小刻みに手を振るわせた状態で、男に銃を向けて狂犬めいた表情を浮かべる矢島の姿がそこにいたのだった。
「見張れって言ったろ」
「ご、ごめん! っじゃなくてその人……誰?」
「ああ……こいつは……」
真堂の指を差す方向にいる男に矢島は答えようとする。
「こいつはなあ……、オヤジの『組』を裏切った極悪人だよ……」
「え……?」
「か、戒斗坊っちゃん……」
銃口を向けられている男がやっと口を開いて、矢島を下の名前で呼んだ。どうやらこの二人は知り合いだと真堂は理解した。
「謙吾よぉ……組を裏切ったおまえが俺をそんな風に呼ぶなや」
銃口を向けられている男の名は『木村謙吾』。本当だったら、あの血塗られ客間で死んでいたはずだった男であり、ざっき放った銃声で人が寄り付くのを避けようと、真堂と矢島は謙吾を連れて違う場所に移した。