「ぼ、坊っちゃん。どっからそんな物騒な物を……」
両手を上げ謙吾は、背中に銃口を向けられながら歩き、矢島が持っている拳銃を指摘する。
「あ、これか? 親父が護身用に持たされたんだよ。それよりさっさと歩けや」
「へい……」
そう矢島が言うと謙吾はおとなしく従い、近くの廃工場まで連れてこられた。
(気づかないうちに、大変な事に巻き込まれたなあ……)
心の中で呟くと同時に嘆息する真堂。イラだたせた表情を浮かべる矢島は、謙吾の背に銃口を突き付けながら、歩いているのをしばらく見ている事で、真堂は少し怖じ気付き始めてきた。
「ん、どうした真堂?」
「いや……なんでもないです」
「そうか……?」
(うぅ……、ぶっちゃけ超帰りたいんですけど!)
心の中で本音をぶちまける真堂は、まずこの状況をどう打破するか、そんな事で頭がいっぱいになっていた。
「よし着いた。おい謙吾、膝ま付け」
「へい……」
「?」
「さあ、話してもらおうか。あの時、親父となにがあった」
廃工場についたところでさっそく矢島は、謙吾に膝ま付かせるように命令し、眉間に銃口を定めて父親(哲斎)が死んだ事件について話させようとする。
「坊っちゃん。よしましょうよ……こんな事しても―――ひぃ!」
下手にでて矢島の顔を見ると、まるで狼のような目付きで謙吾を見下ろしていた。
「早く話せっつーのっ!」
いつまでも話さない謙吾に対して肩を強く蹴り上げ、偶然おととい哲斎に銃で撃たれた傷に当たった。
「ウギァアアー!」
「や、矢島さん。やりすぎだって!」
謙吾の叫び声に肝が冷えかように、まずいと感じた真堂は、矢島に程々にするように言い付ける。
「ああ? ちょっくら蹴っただけだろうが?」
「でもなんか―――あ……」
矢島が蹴り上げた謙吾の肩には、血が滲み出ていることが確認できた真堂は、唖然として黙ってその状況を見ていることしかできなかった。
「謙吾おまえ……」
謙吾のその生傷を見て、矢島はあることを悟った。
「その傷……? さてはてめえ親父を怒らせたな」
「うぅ……」
まるで吐き捨てるかのように言うその台詞には、明らかに見下している要素が含まれていた。その事に気が付いた謙吾は思わず少しだけ唸り声をあげた。
「親父が怒るなんてな〜、よっぽどのことがあったんだろうなあ……一体全体なにがあったってだ。答えろ!」
そろそろ限界に達した矢島は額にグリグリと銃口を押し付け、無理矢理にでも謙吾に父親の死の真相を聞き出
そうとする。
「ひぃ! わ、わかりましたしゃべります。しゃべりますから撃たないでー!」
この木村謙吾という人物は、見た目は勇猛そうな容姿でもある。だが中身は肝の小さい臆病者で、やるときはやる奴なのだが、なにかしら立場がまずくなると必ずその欠点が目立ってしまい、最後には怖じ気づく男なのである。
(ああ、これはもう止められない状況だな……)
二人の様子を黙って見ていた真堂は、心の中で諦めがちな状態で呟いていた。
「あ、あの時は撃たれた後にちょっと気絶してたから、記憶が薄れて思い出せませんが、それでもいいですか……」
「かまわん言えや」
「へい……」
あまりにも理不尽な状況に謙吾は渋々答えようとする。
「まず組長が死んだ原因は、俺がある組織にある人物についての情報を売った事から始まりやした……。その情報売った事で組長にばれて拘束されて、弁解したところでこんな有り様ですよ」
苦笑を浮かべながら謙吾は有りのままを説明する。
「てめえのケガの原因はどうだっていい。それで、その状況で親父は誰かと会っていたはずだが……」
「ちょっと待って下さい。一つ聞いていいですか?」
「あんだよ?」
矢島の質問に妙な点を感じた謙吾は訪ねた。
「なんで坊っちゃんは、俺が組を裏切った事を知ってるんスか? あの時、現場にはいませんでしたよね」
「そんなら、聞いたんだよ」
「え……誰に?」
「清美に―――」
「清美! あの女狐ぇ……」
矢島の言う密告者の名前は麻川清美(あさかわきよみ)。父・矢島哲斎の愛人と同時に組長の右腕(ナンバー2)でもある彼女は、今は息子の戒斗の世話係をしている女性だった。
「清美が言ってたんだよ。酒もったら一発でゲロったって」
(あの女……とつぜん積極的になったと思ったら、そういうことだったのか……)
「それより、さっき言ってたある人物の情報ってなんなんだ?」
「はいはいもう全部話しますよ」
さっき言った矢島の真実に、謙吾はかなり砕けた態度で質問に答えようとする。
「そんな事態度だと、もう片方肩に風穴開けっぞ〜」
「へ、へい……! 分かりやした」
「よし。続けろ」
当然のように矢島はその態度が気に入らなかった為、謙吾を再び脅そうとする。