一方、真堂は獅郎を連れて校門を通り過ぎた後、全速力で走ったのでかなりの体力を使ってしまった。そのせいか自分が学校の行き帰りの道を通っていた。
「はぁーはぁー……獅郎ぅ」
真堂は獅郎を引っ張ってきた疲労で声が荒々しくなる。
「ん?」
さっきまでの口論がなかったかのように振る舞う獅郎に、愕然とした真堂は道の真ん中で膝をつく。
「「ん?」っじゃないでしょ……が、なんだよ―――あれ……」
真堂は再び立ち上がり両手で膝を支えながら、疲労が混じった言葉で獅郎に問う。
「あれって?」
「とぼけるなって! 先生の態度といい、あのストレートな物言いはなんだよ!」
獅郎が言ったお節介がすぎる発言に、意義を唱える真堂だが「ああ、あれか」と、全く聞き入れる様子が見られずにいた。
「でも本当の事だろ?」
「それで―――も、あの言い方はまずいって……」
「おお……わかった……」
なにか物足りなそうに了承する獅郎。
そんな真堂は喋る事もままならず、疲労が重なり続けると同時に両手で膝を支えることすらできなくなってしまい、背中に持たれゆっくりと呼吸を整える。
「……なあ」
「え……なに?」
「……あれ」
道の端っこでバテる真堂を見て、獅郎は他に休める場所はないか探そうと周囲は見回すと、ある最適な建物を見つけ問うた。
「あぁ、獅郎は初めて見るっけ」
「なんなんだ。あの教会」
「確か五十年前……日本がまだ『高度成長期』の頃に建てられたって聞くけど、そこまで詳しい事は知らない」
「へぇ〜戦後に……『三種の神器の頃』ねぇ……」
真堂が教会について話したところ、獅郎はあの教会が戦後間もなくして建てられた事を理解した。そして呆れたような口調で、その時代にできた三種類の家電製品の名称を口にした。
「よっこいしょっとっ―――」
獅郎は自分の肩に真堂の片腕を組ませた。
「あん中には誰かいるのか?」
「ううん誰も。何年か前に教会には、神父さんが一人居たらしけど、三年前に亡くなったらしい」
「三年前って、あの事件が起こった年か」
三年前に教会いた神父とは、よく町のボランティア活動に参加し、毎日教会の掃除を日課としていた人道心の深いキリスト教の信者であると真堂は言う。そのことで獅郎はその偶然の重なりようによっては、どこか不吉な気配を感じた。
「うん、その年に父さ―――」
『た……すけ―――お……ま―――そ……ぃ―――』
教会の敷地内に踏み入れた瞬間、雑音混じりに聞こえた声が真堂の頭の中をよぎった。
「―――んの葬式……に」
「ん、どした?」
疲労のせいで喋れないのか、それを心配するかのように獅郎は涼しげな顔を横に向け真堂に問うた。
「……いや、父さんの葬式にも出てたかなって」
「ふ〜ん」
「獅郎……」
「ん?」
「さっき……何か言わなかった」
「いいやなんも?」
「……そう……」
訪ねられた獅郎にはあの声は聞こえてないらしい。ただ、自分から言ってはおかしく思われてしまうかと考えた真堂は、そのまま獅郎の肩に捕まったまま、教会の中に入っていった。