小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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片方の耳になにか風を切る音が聞こえた真堂は、それに誘われたかのように後ろを振り向く。するとそこには両手を尖らせて、先端を前方に向けてライダーポーズに近い体制をとり、堅苦しい表情をしながらも、黒いスーツに身を包んだ見た目は、真堂と同じ年に見えるかなり色白の少年が立ちはだがっていた。

(誰……だ?)

「け、謙吾っ!」

その少年を見て数秒起った後。矢島の声からして、状況の突然の変化に気付いた真堂は、元の方向に戻ると、そこには謙吾の胸元に大剣が一突きにされた姿があった。

「あっ……ああ」

「ぼ……ぢゃ―――がはっ……!」

余りにも信じられない光景に真堂は思わず言葉を失う。同時に謙吾はカンケツセンの如く大量に吐血し、後にその場で息を引き取った。

「謙吾! 謙吾! おいしっかりしろ! ダメだ死んでる。一体なにが起こったんだ!」

「多分、後ろの人が知ってるかも……」

「なんだと?」

後ろを向きながら言う真堂に矢島も同じ方向を向いた。すると同じ目に写る白髪でかなり色白の少年が口を開いた。

「矢島哲斎のご令息・矢島戒斗さんですね。あなたには怨みはありませんが、父親と同じく死んでもらいます」

年に似合わないような台詞を口にした事で、腹痛を覚えるほどの殺気をほとばしらせ、二人は少し後退りし、この状況をどう脱するか考え始めた。

「ど、どうする……あんな暗殺者的なこと言ってるけど」



 一瞬で汗が吹き出したのにも関わらず、緊迫した空気に飲み込まれたせいか、真堂は在り来りな言葉しか交わさない。

「そうだな……とりあえずこいつを試してみようと思う」

なにかの超能力だと思うが、向こうには大剣を飛び道工ように操ってくる少年。矢島は背中に隠した拳銃が効くかどうか試そうとするが、同じ状況下に居る真堂は余り賛成できなかった。

「でも銃を出したところで、またあの大剣が……ん? たい……けん。あ!」

真堂のある記憶が脳裏に過った。それは2ヶ月前にジョニー・蓮=マーキスに会った時に、起こった謎の襲撃(第一話参照)。あの黒いスーツに身を包んだ少年の仕業だとしたら、これは真堂にとって隠された真実に近く為に、仕組まれたような運命の巡り合わせにとてつもない恐怖を感じた。

「どうした!」

「いや、なんでもない」

そんな事を気にしている暇はなく、今はこの状況をどうにかしようと矢島が行動に移ろうする。

「いいか、あいつが三歩近づいて来たら、このチャカで俺があいつを撃つ。たぶん……これでなんとかなるはずだ」

倒せる見込みもなくとも、最低限危機を脱せない策がないよりかはましだと思ったのか、シンプルな矢島の策を真堂は賛成せざるおえなかった。持ち前の未知の能力とはいえど、発動の仕方が不透明な為に期待はできなかったのだ。

「……わかった」

「よし決まり」

黒いスーツを身を包んだ少年がまともな射程に入るまであと三歩。

「おい真堂。もし俺になにかあったら……おまえだけでも逃げろや」

「へ? フフ……逃げろ、か」

「ん? どうした?」

この緊迫した状況下で、真堂は余裕を見せるかのように微笑を浮かべた。射程に入るまであと二歩。

「逃げないよ。俺は」

「んだ? 逃げなかったら死ぬんだぞ……!」

真堂の言葉に矢島は鳩が豆鉄砲を撃たれたかのような表情で応じる。そのことで何かの拍子で自分と同じく肉親を失った非行少年の為に、覚悟を決めた真堂はあることを口にする。射程に入るまであと一歩。

「俺はもう……あの時から死んでいるから……」

「おめえ……」

テロを経験をしたことで、ある意味多くの屍を超えてきた少年は、思い積めた話が終わった後、少年は矢島が決めた射程えと入った。

「今だ真堂逃げろ!」

バンッ

矢島がついに少年に銃を向け眉間に目掛けて撃ち放った。

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