小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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以上、この謎のフラッシュバックを見て、あまりにも不可解な点が多すぎて、自分に対する大きな難題に名無しは理解に苦しんでいだ。

「―――これが俺が見たかぎりの情報です」

「ん〜………×2」

同じく智美と真堂も理解に苦しむ。

「やっぱり信じられませんよね、こんなこと……」

二人の考え込む様子から見て、あまり信じられていないことを悟り、名無しは両手に膝を着いて落ち込み始めた。

「そうね、心臓を刺されても死なない人間なんて私には信じられないわ」

「姉さん……」

智美の言葉に空気が重くなり始め、名無しはよけいに落ち込む。

「確かに信じられない。だけど……面白い!」

だが智美のこの発言で、重くなっていた状況が一転させられる。

「姉……さん」

「面白い。面白すぎるわ! こんな信じられないことが他にはないわよ、李っちゃん!」

真堂は信じられないと思っていたが、逆に姉の好奇心に火を着けたかのように燃え上がらせ、信じ始めたのである。

「信じてくれるんですか……?」

「もち!」

テンションが上がりつつ、智美は舞い上がるかのように立ち上がり、次のように答える。

「よかったじゃないですかアベルさん」

「は……い?」

真堂は彼の名を名無しと呼ばず、最初のフラッシュバックで聞いた『アベル』という名で呼んだ。

「李っちゃん『アベル』って―――」

「あくまで推測だけど、最初のフラッシュバックで聞いた『アベル』っていうのは、おそらく名無しさんの本当の名前だと思うんだ」

自らの推測で名無し改めアベルという本名を当て、親しみ安そうに言う。そして一つの小さな問題が吹っ切れ、爽快な笑顔を見せた。

「アベル……それが……俺の名前……」

「よかったじゃない。なな……じゃなかった。アベルさん」

ちなみに智美が真堂と比べて、アベルにどうして『ちゃん』ではなく『さん』を付けて呼ぶのか、それは自ら彼のことを年上と認識したうえで呼んでいるらしい。

「ふわぁ〜……、さて、一つ問題も解決した事だし、私はもう寝るわ」

 「ごめん姉さん、長く引き止めて」

 「ん〜」

あくびをしたと同時に智美は自分の部屋に戻り、客間にはアベルと真堂の二人だけになった。

「それにしてもよかった。本当の名前がわかって、真堂さんありがとうございます」

「もう敬語はいいよ」

「え?」

なにか全てを悟ったかのような面持ちで、真堂はアベルに言った。

「なんのことですか……?」

「あれが『素』だったんでしょ」

『てめえのせいで……ちょっと気絶しちまったじゃねえか!』

「それは……」

二人はアシュレイとの死闘のことを脳裏によぎらせ、アベルは弁解のよちがないと判断し、素直にあの時の行動が『素』つまりは少し記憶を取り戻したと同時に、元からあった人格も取り戻した事を認めた。

「最初見た時は意味わかんなかった。だけど改めて考えてみたら、あれが元の姿だって分かったんですよ」

「バレたか……」

口調を敬語からタメ口に切り替えアベルは、自らの人格を表すように真堂と話す。

「フラッシュバックよりも、他にも記憶は取り戻したんじゃないんですか?」

「いや、それがまったく。あの時はたぶん、肉体に染みた記憶が目覚めたんだと思う」

「肉体の記憶?」

アベルは具体的に言ったことには変わりないのだが、真堂はイマイチ知力が乏しかった為に、あまり理解ができなかった。

「ほら、俺が心臓を刺されても息を吹き替えした時に、自分で言うのもなんだが急にケンカっぱやくなったろ。そんだから、大剣を操ってくる妙に強かった小僧と同格に戦えたんだ」

「ということはあの時、偶然体が覚えていたことだったから、俺達は助かった訳ですか?」

やっと理解した真堂。

「そのとおり」

「もしかして記憶を失う前は、ただのチンピラだったりして」

「さあ……そこまでは分かんねえな。逆にこっちが聞きてえくらいだからよ」

「なるほど……、じゃあいつまでもここで雑談してもしょうがないから、今日のところは休みますか」

アベルの正体について詮索するのは一時中断し、真堂は明日の小テスト(英語)に向けて寝るのであった。

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