昼休み。屋上。
「それで、話しってなに?」
「まあ食いながら話そうや―――」
屋上に呼び出した獅郎が真堂に話す内容とは―――。
物心ついたばかりの獅郎がまだ実家に住んでいた頃、廊下を歩いている途中に飾ってある、母親が気に入っていた花瓶が壊されていたのを発見した。なぜなのか一人で欠片を拾って片付けていると、使用人にそれを目撃。犯人として濡れ衣を着せられて、実家が所有している倉に罰として閉じ込められた。という内容に真堂は―――
「ベタだね……」
「ああ、ベタだ……。話しは続くんだが、その前におまえの家に居着いている『名無し』ってやつなんだけどよ、記憶は戻ったのか?」
「いろいろあって、だいぶ記憶が取り戻せたみたいなんだけどさ」
「いろいろ?」
「そういえば獅郎には話してなかったね、実はさ―――」
真堂が昨日の出来事を全て話した。そしてその一割が信じられない内容が、名無し改めアベルの不死説である。
「心臓を刺されてもしななかっただと……!」
「まあ信じられないのも無理ないよね……」
当然のようにうつむき、動かしていた箸の手を止めた。
「……でも、ありえるかもしれないな」
「え……? それってどういうこと?」
すんなり信じた獅郎は、それと同時にどこか心当たりあることに真堂は驚いた。
「さっきベタな俺の昔話をしたろ」
「倉に閉じ込められたんだよね」
「そうだが、実際の問題はその後。暗いところは別に怖くわなかったから、何時間か閉じ込められたんだけどよ。そんな時に暇を潰す為に倉の中を探検したら、かなり古いアルバムを見つけたんだ」
真堂は獅郎の話を頭の中で想像しながら、さっきまで止めていた箸の手を動かした。
「へー、そのアルバムってどのぐらい古いの?」
「そうだな……、ちょうど明治ぐらいの代物だったな……」
「というと、100年前ぐらいのアルバム!」
「まあ、そうなるな」
さすがの獅郎も物心ついたばかりなので、苦労して掘り起こした記憶でも、まだ曖昧であまりハッキリとした事はおぼえてはいなかった。
「話しは戻るんだが、とりあえずそのアルバムを見たら、なかには二人の男女が写っている写真を見つけたんだ。写真に写っていた男の方は名無し……じゃなかった。アベルと瓜二つの人と、女の方は家のひいばあちゃんの妹・『崇妻妃』だったんだ」
「獅郎の実家にアベルさんと似た人の写真が!」
それを聞いて真堂は、アベルに対するミステリアスな要素がよりいっそう濃くなり、他にもなにか隠しているのではないかと、さらに疑問を抱いく。
「今はこれしか覚えてはいないが、この情報でどう役にたつかはわからない。後はおまえの判断に任せるよ」
「……ありがとう獅郎。わざわざ遠い記憶まで掘り起こしてきてくれて」
まだ少し戸惑った様子を見せながらも、真堂はあることをというより、いままで言うのは忘れていたことを獅郎に話そうとしていた。
「実はさ―――」
昨日はアベルがあの戦闘で一回死んだように、今から4日前に真堂も似たような戦闘(第三話参照)で一回死んだ事と、その後に謎の夢(灰色の世界)を見たことを獅郎に告げた。
「―――っていうことがあったんだけど」
「なるほど……李玖―――」
真剣な表情を表しながら獅郎は―――
「―――おまえ病院行け」
「なんで!」
真堂はまるで期待を裏切られたかのように、獅郎に驚きながら問うた。
「いやだってよ。そんな漫画みたいな話しが俺は信じられないし……」
「さっきまで信じてたじゃない!」
「あのなあ李玖。そんな自分の人生が急に漫画みたいに、都合よく切り替わる訳ねえだろう。アベルはともかく、自分が一回死んだ後にスーパーサ○ヤ人(超人)みたいになったとか、夢の世界で美少女にあったとか、どれも現実離れした話ばっかで、証拠が一つもねえじゃねか!」
「うっ……それは……」
獅郎はまるで子供を叱りつける父親のように、真堂に言ってのけた。
(しゃべり過ぎたか……)
確かに現実主義(リアリスト)の獅郎にとっては、信じられる容量というものが越えているため、真堂は一気にアベルの不死身説から、自分の超人説をたして話したことが誤りだと今になって自覚した。
「ったく……」
「ごめん獅郎。この話は今度証明させるからさ」
「あっそ……」
友に呆れた獅郎をみて真堂は、機会があればまた話そうと決め、イラついている彼を落ち着かせた。
「それにしても……」
「ああ……」
二人はアベルの話を戻し、元の新な情報を知った時の静けさに戻った。
「獅郎は自分の家についてはどれぐらい詳しいの?」
「んん?」
不意に言ったその言葉に獅郎は、自分の記憶を試すかのように崇妻家の歴史(知る限りの)を語りだした。
崇妻家の歴史は1000年前・平安時代から続く家系で、正確には1083年である。その歴史の始まりは村お越しに励む平民と、大妖怪の先祖を持つ美しい妖狐の出会いによって始まった。
西暦921年。ごく普通の村人に過ぎなかった青年・賢介は、趣味の薬草探しに深い森を探索している途中、茂みで泣いている裕福そうな格好した美しい女性・崇妻天喜(※あまき)を見つけた賢介は親切に助け、家に招き入れて彼女の事情を聞き入れた。
(※↑ちなみにこの時代の日本は幕末まで、まだ民間人に苗字を持つことは許されていなかった。その為、今と昔とでは名称は異なる)
この先代の生まれるきっかけの出会いによって、崇妻家の歴史に始まる元となったこの話は『崇妻平安創家伝(あがつまへいあんそうかでん)』として崇妻家に伝えられている。