小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「―――っとまあこんなとこっだな、詳しい話ははぶくが、これが家の基礎中の基礎だ」

「へー、おとぎ話みたいな話だね」

「まあ先代の母が妖狐だったことは疑わしいぐらいのだがなぁ」

獅郎が言う『崇妻平安創家伝』の疑わしい異説というのは、先代の母が妖怪だという説は単にインチキとしてまとめられていた。

「そういえば、その写真にアベルさんと一緒に写ってたっていうその……―――」

「崇妻妃な」

「ああ、そうそう。その崇妻妃ってどんな人だったの?」

「確か―――」

獅郎の話だと崇妻妃という人物は、崇妻家9代目当主・崇妻美世子の妹で、貧困が絶えなかった明治時代に、貧しい人々に対して多大な援助をしたと言われている。

「へー、いい人なんだね」

「崇妻家では『明治の聖母マリア』って二つ名もあったらしい」

「そんな異名が付けられたくらいだから、とてもすごい人だったんだろうね」

「それだけに体が病弱だったから、20代半ばで亡くなったらしいがな」

「そう……なんだ」

それを聞いた真堂は『立派なことをする者は必ず早死にする』という仮定を自ら心の中に提唱しながら、知識の一部として頭の中に埋め込み、さっきまで気に入っていた人物のあまりにも短い人生に同情した。

「まあ、俺が知っているのはこれだけだな」

「獅郎、どうして急にアベルさんについて話をするようになったの?」

「あいつを最初に見たときに、どっかで見たような気がしたからな、とりあえずいろいろあってあの写真にたどり着いた訳なんだが」

真堂に気を遣った獅郎は群青色の空に視線を向け、腕を組みながら理由を述べる。

キーンコーンカーンコーン

「あれ? もうそんな時間」

昼休みが終わるチャイムが鳴り、獅郎と話した間にどうやら弁当と同じく違う意味で時間を食ってしまったらしい。そのこと知ってまだ半分しか弁当に手を付けていない真堂は急いで食べた後に、新たなる謎を抱えながら全速力で教室に戻っていった。

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