小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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6月12日。土曜日。東京都。新宿区。
横断歩道を歩いて人混みに紛れている一人の男がいる。漆黒に染まったロングコートを着こなし、男は女のような顔つきをしている。いずれ男は周りに人気(ひとけ)が無くなってところで、目の前にある電話ボックスに近づき、中に入って受話器を片手に持って小銭を入れ、番号を打った後、しばらく連絡先の人が出てくるまで待つ。

2分後。

『プルルルプルルルプツッ―――おいこらジョニー。だれか連絡していいと言った』

電話の相手は少しキレ気味なある老人で、電話してきた主は『ジョニー・蓮=マーキス』であり、今日はその老人の許可なく連絡したのは、ある重大な事を伝えに報せる為に連絡したのであった。

「申し訳ございません同志。今日はある情報を報せに電話したのですが」

『アルスターカンパニーのか?』

アルスターカンパニーの潜入を依頼した老人自信はそう思ったが、それよりも違う事をジョニーは答える。

「いいえ、隠居中で知らなかったと思いますが、5日前に『矢島組』が敵組織に壊滅されました……」

『なに! じゃあ哲斎も!』

唸るような表情でジョニーの報告し老人は驚き、同時に張り上げた声で問う。

「はい……」

『死因は……自殺か……』

「そうですが……なぜお分かりに?」

 矢島哲斎の死因を一発で当てた老人に、ジョニーは話を進める。

『いやなぁ……、アイツらしい死に方だといえば、それだと思ってな―――』

その声は切なさを混じらせ、とても穏やかな口調で老人は答えた。

『―――『桜』の花弁が1枚散ったか……ジョニーアイツは過去に、愛しく帰るべき場所である国に報いれず、死にそびれたという恥に等しい経験があったんだ。それ以来俺という居場所を見つけ、常に忠義を示していたんだがな……。どいつもこいつも勝手に行きやがって……』

 「同志……」

声のトーンからしてまるで少ない友を失ったかのように、ジョニーは電話越しにいる老人が、そのせいで落ち込んでいることを悟った。

『まあそれでガキの心情みてえに、悔いるなんてことはしねよ。犠牲は覚悟のうえだからな、俺にはただ「しょうがない」としか言葉にできねえしな……。そこでジョニー、頼んだアルスターカンパニーの件はどうなった?』

不屈の精神を表すような切り替え方で、ジョニーは少し反応するのが遅れた。

「はい。潜入するには手間がかかりましたが、おかげでアルスターカンパニーの高官と近づく事に成功しました」

『高官というと『アルスターシックス』か?』

老人が言う『アルスターシックス』とは、アルスターカンパニーの高官つまりは、世界中に散らばっている六つの支社長達のことを指す呼称である。

「そうです。同志の方はアルスターカンパニーの支社長についてなにか掴めましたか?」

『いや『香港』からの情報だと、中国支社長のケビン=リーは例の組織の依頼には関わっていないらしい。どうやらハズレのようだ。そこでおまえはどうなんだ?』

「……アタリです」

『ホントか!』

ジョニーの一言でたった一握りの情報が手に入りそうと、まるで若か返ったかのように老人は驚いた。

「私の近づいた高官は、日本支社長の神崎正志です」

『神崎正志……アルスターカンパニーの医療部門のトップか……』

「それに、例の組織の依頼に社内で行われるプロジェクト名がわかりました」

『ほう?』

「『アルマゲスト・ロゴス』だそうです」

『………』

計画名を聞いて、しばらくしてある事考えて次のように答える。

「同志?」

『おそらく、プロジェクト名の由来は、依頼した組織が考えた物だろうな』

「はあ?」

『スティークス……おそらくあいつが持ち掛けたんだろうな』

「あの組織の残留幹部の一人です、か……―――」

この時、ジョニーと電話越しの老人の二人は、お互いの過去を振り返る余韻にひたるかのように沈黙がしばらく続き、電話ボックス内は切ない空気に埋もれた。

「―――とにかく、これが私が知り得た情報です」

『ご苦労。引き続き任務を継続してくれ』

「了解しました」

ガチャン

急にお互い冷静な仕事モードに切り替わり、ジョニーは受話器を戻して電話ボックスを出ていった。そしていままで眠っていた闘志が目覚めたかのような顔つきで、その場を去り、ある方法で老人の命令を忠実にすいこうするのであった。

(組織は必ず潰す)

ある目的を胸に―――

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