小説『ゼツボウロジック 〜西園寺日寄子の場合〜』
作者:かりべ?()

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日寄子が予備学科に配属されてから三日が経過した。

クラス内での日寄子はというと……。

「さ、西園寺さんの家って日本舞踊の名門なんだよねっ! 僕さ、一度観にいったことがあるんだよ!」
「あ、そうだったの? やっぱりねー、そうだと思ったよ」 
「え? やっぱりって……も、もしかして僕の事見た事あるとか!?」
「キャハハハ、そんなわけないじゃ〜ん! 自意識過剰もここまでくると病気だね。私が思ったやっぱりってのはさ……あなたが小さい子に対して本気で欲情しちゃう真性のロリコンだって事だよ! 私の踊りを観に来る人ってそんな男の人ばかりなんだよねー。別にお金払ってくれれば、私的にはどんなキモい豚野郎に観られてもいいんだけどさ、プライベートにまで干渉してくるとか本当サイアクだねー。お金はいらないからとっとと死んじゃえばいいのにさー」

日寄子の罵詈雑言を聞き終わる前に話しかけてくれた男子生徒は泣きながら去っていた。

確かに今走り去っていった彼には少なからず日寄子に対して卑しい思いを抱いていたが、しかしそれは彼の常識と理性とで厳重に隠し、あくまで一人の学友として話しかけたつもりであった。

だが日寄子はそんな一般生徒を突き放すどころか、心に深いトラウマを植え付けるような暴言で返した。

このような事が、日寄子が予備学科にきてから幾度となく繰り返されてきた。

日寄子に話しかける者は男子が九割で、その男子達はもれなく日寄子のファンであるという者達だった。
希望ヶ峰学園本科に属する者の中には、超高校級のアイドルといった芸能の世界で活躍する者、果てには超高校級の王女といった政治の世界にまで影響力がある人物もいる。
もちろん日寄子も日本舞踊家として世に広く知れ渡る人物だ。
予備学科にファンと呼ぶべき者達が居てもなんらおかしくない。
ただ、そのファンの大半は先ほど逃げ去った男子生徒のような、いわゆる女性の趣味が少しばかり偏っている男性ばかりであった。

そして日寄子はこの三日間、そのファン達の中でも恐れず話しかけてくる者達を先ほどのように罵詈雑言で追い返していた。

そんな日寄子を口の悪さと態度だけなら相変わらず超高校級だのと、予備学科の女子生徒達は皮肉を込めて陰口をしていたが、日寄子はもちろん気にしない。むしろ、そうなる事を望んですらいた。

予備学科などという本科の人間からしては家畜小屋同然なのである。
差別意識には人によって程度があるが、少なくとも日寄子は予備学科の人間を人間として扱うつもりはなかった。

そのようなわけでファンであろうとその口撃を緩める事がなかった日寄子は次第に話しかけられる事は少なくなっていた。
女子はもちろん、ファンだという男子達も一度話すと、もうそれ以上に関係を求めてくる事もなかった。

ただ、一人……この三日間、どんな暴言を吐かれても健気に日寄子に話しかけてくる男子が一人居た。

「……うわあ、また来たよー。懲りない人だね。そろそろストーカーとして訴えようかなー」
「そ、それは勘弁してくれ! 俺はただ話を聞きたいだけなんだよ!」

日寄子の前に立った一人の男子、身長はそれなりに高く、180くらいあるだろうか?
日寄子と並ぶ事で一際大きく感じる。顔立ちはこれと言って特筆すべき特徴がない平凡なものであった。

この男子は三日間めげずに日寄子の元へ何度も訪れていた。
別に日寄子のファンというわけではないらしい。
日寄子の踊りを観に行った事すらないと言うのだ。
それでも彼が日寄子の元に通うわけは、なんでも日寄子から話を聞きたいだけだと言う。

「ていうかさー、あんた誰だっけ? 私どうでもいい人の事は覚えられないんだよねー。クスクス」
「俺……もう何度も自己紹介したと思うんだけど……」

はあ……とため息をついて、改めてその男子生徒は自己紹介をした。

「俺の名前は日向創だ。いい加減覚えてくれ……ていうか、わざとだろ?」

その男子生徒――日向創は、そんな事を言いながら呆れ顔で日寄子を見ている。そんな態度がまた日寄子の神経を逆撫でしていく。

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