小説『ゼツボウロジック 〜西園寺日寄子の場合〜』
作者:かりべ?()

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「ああ、そうそう、日向おにぃね……。すっかり忘れてたよーごめんねー」
「なあ、西園寺……もう何度も言ってるけどさ、その他人を突き放す様な態度は改めた方がいいぞ」
「はあ? そんなの人の勝手でしょ? ロリコンでペドの日向おにぃがそんな偉そうな事言っても説得力ないよー?」
「俺はロリコンでもないし、ペドでもない!」
「えー嘘だー! だって私に話かけてくる男子なんてみんなそうだよ? 変態ロリコンペドの犯罪者予備軍な奴らばっかだもん。クスクス……あいつらったら私にここまで言われてるのに、惨めに否定も出来ないんだよ……。本当の事言われて何も言えずに泣いて逃げていくんだー! キャハハハ、今思い出しても笑えるよ!」
「お、おい言い過ぎだぞ……。それに俺はそういう下心抜きで西園寺の話を聞きたいんだ! 頼むよ!」

必死な日向の態度に今度は日寄子がため息をつく番だった。

この日向という男子は「ただ西園寺の話を聞きたい」の一点張りを三日間通してきた。
しかし日寄子にしてみたら予備学科の一男子生徒の話相手になんぞなる義理はない。
才能が失われ、予備学科に異動させられたという屈辱的な状況におかれ、どうすればここから抜け出せるか、そんな事ばかり考える日々である。

しかも徐々にだが、体を悩ます痛みがついに日常生活にまで支障をきたしはじめていた。
だからこそ、必要以上に口撃に力を入れていたのだ。

"才能を持つものは強くなければならない。"

そんな言葉を日寄子は史上の考えとしていた。

小柄な体格あるがゆえに運動方面がからっきしであった日寄子は、ならば口が立つようになろうと幼い頃に思いついた。

そんな経緯で口喧嘩では負け知らずとなった日寄子だが、才能という前提がない今の日寄子はただ口が立つだけの一人の女子生徒に過ぎない。
まして、そんな西園寺が今いるこの予備学科はいわば敵地であるとも言える。
羽をもがれたトンボが蟻の巣が点在する場所に落ちたようなものだ。
いつ周りの連中が牙を向いてきてもおかしくない状況なのである。
生き残るには突き放すしかない。
身を守るための過剰な罵詈雑言。
口撃は最大の防御と言ったところであろうか。

そんな日寄子の考えを無意識に否定してくるのがこの日向創という存在であった。

「……とにかく、私は日向おにぃと話したい事なんて一つもないから。さっさと目の前から消えてくれない? その冴えない顔見てると気分悪くなってくるんだよね」
「分かったよ……。でも、また来るからな」
「…………」

無言で拒否だという意志を示したつもりの日寄子であったが、それが無意味な事もなんとなく分かってしまっていた。
おそらく、いや、確実に、明日も日向創はここにくるだろう。
だが屈してはいけない。
たかが予備学科生ごときに屈してはならない。
自分は彼らのような凡人とは根本的に違うんだ。
選ばれた存在なんだ。

このように、日寄子は外にも内にも虚勢を貼り続けこの予備学科で過ごしていた。

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