小説『ゼツボウロジック 〜西園寺日寄子の場合〜』
作者:かりべ?()

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夜になり、寮に戻った日寄子は制服のままベッドに寝転がり、好物であるグミを頬張っていた。

予備学科では寮もやはり本科には劣っており、まだ新築であるというのに所々に造りが粗雑な点が見受けられた。
家具にしても簡素なもので、時代遅れのブラウン管テレビと半畳ほどのクローゼット、そしてトイレと一体となっている浴室、備え付けのものはこれくらいである。

日寄子の部屋には家具らしい家具はないが、着物が一着かけてある。
これは日寄子お気に入りの着物で舞踊の時はもちろん、休日ですら一日中着けている事もあった。
しかし今は着る事はできない。
日寄子は自分で着付けができないのであった。

「小泉おねぇ……今なにしてるかな……」

小泉おねぇとは日寄子が本科に居た時の友人で、本名は小泉真昼という。
彼女は日寄子が悪態をつくことがない唯一と言っていいほどの存在で、また日寄子の着付けも彼女がやってくれていた。

「電話してみようかな……」

そう言いながらグミの袋に手を伸ばしてる方とは逆の手で携帯をとる。
するとタイミングよく携帯が音を立てて震えはじめた。

「小泉おねぇ!?」

思わず発信者の名前を確認せずに電話にでる。
しかし聞こえてきた声は日寄子が期待した小泉真昼のものではなかった。

「あ、あのぉ……私ですぅ……。罪木蜜柑ですけど……」
「……切るね」
「ふぇえええ!? ままま、待ってください! かけたばかりなのに切らないでくださいよぉ!」

電話をかけてきた罪木蜜柑と名乗る者、彼女もまた日寄子の数少ない学友の一人である。
学友とは言ったが日寄子にとっては別に友達というわけでなくでなく、弄りがいのあるオモチャにしか過ぎない。
常にオドオドと他人を恐れ、尽くす事をを史上とする彼女を日寄子は「イジメられるために生まれた女」と評している。

そんな罪木がなぜか(電話番号など教えていない)日寄子に電話をかけてきたのだ。

「あ、あのあの、西園寺さん元気にしてるかなーって思って電話したんですよ……。もしかして迷惑でしたか……?」
「うん、迷惑。罪木の気持ち悪い声聞くとむしろ元気なくなるからもうサイアクだね」
「ふぇえ!? そ、そんなひどい声なんですか私……そ、そのごめんなさい……」
「ていうか番号教えてないはずなのになんでかけてこれるの? もしかしてビッチらしく私の番号知ってる男に股開いて聞き出したとか? うわードン引きー」
「ち、違いますよぉ! 小泉さんに聞いたんですぅ!」
「小泉おねぇに?」

電話にでる前に期待した人物の名前がここで出てきて、日寄子の容赦ない口撃は一旦なりを潜める。

「はい……あの、小泉さん、今はいろいろと忙しいみたいで学園にも居ないんです。西園寺さんの事も心配してらしたんですけど、とても連絡してる暇がないそうで……」
「そうだったんだ……小泉おねぇ大丈夫かな……?」
「なんだか実家の方で大きな催し物があるそうでその手伝いだそうです。来週には戻ってくるそうですよ」

小泉は"超高校級の写真家"という才能により希望ヶ峰学園に入学しているが、
彼女の母も著名な戦場カメラマンとして今でも世界中で活躍している。
今回はそんな小泉母の個展が開かれているそうで、娘もその手伝いに駆り出されたというわけであった。

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