小説『ゼツボウロジック 〜西園寺日寄子の場合〜』
作者:かりべ?()

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「まあ、実はそれだけが理由じゃないとも言えるんですけど……」
「もしかして……おねぇったらまだ"あの事件"の事引きずってるの?」
「はいぃ、多分……」
「大丈夫だってあんなに言ったのに……私達はなんにも悪くないんだし、そもそも狙われたりしないって」
「私も……そう信じてますし、小泉さんにも言いましたけど……なんだか私達以上に事件について思いつめてるみたいです……」

日寄子は思わずため息を漏らす。
"あの事件"は確かにショッキングな出来事であった。
強がってはいたものの心の中では大きな不安が渦巻いていた。
しかし気にしても仕方ないのだ。
そもそも私達はなんにも悪くなくて、運悪く巻き込まれてしまっただけだ。
"彼女"が殺されたのだって……信じてなどいないが、呪いのせいだと言うならますます私達に悪い事などないのだ。

日寄子がそんな言葉を小泉に伝えようと思ってた矢先に予備学科への異動となってしまったのである。

「実は私も……とても怖くて、不安なんです……。西園寺さんは平気なんですか?」
「はあ? 小泉おねぇはともかく、あんたみたいなゲロブタなんかと一緒にすんな! 私はそれどころじゃないんだよ!」
「ひぃいいい! ごめんなさいごめんなさい! そうですよね、西園寺さんも西園寺さんで大変なんですよね!?」
「なに、その上からな同情は? 私が予備学科に飛んだからってもしかして見下してる?」
「そそそ、そんなつもりじゃ……」
「……まあいいよ。どうせ次に死ぬのはあんただろうし」
「ふぇえ!?」
「だってー、あんたが一番鈍臭いじゃん? 私が犯人ならそういう殺しやすい奴から殺すけどねー」
「そんな! さ、西園寺さん、私、どうしたら……」
「さあ? とりあえず今夜辺り危ないかもねー。新月で一際暗いし、証拠隠滅も楽そう…」
「えええ!? そんな、西園寺さん、助け……」
「あ、私お風呂入るから切るね。それじゃ生きてたら小泉おねぇによろしく」
「待ってくだっ」

最後まで聞き届ける事なく電話を切る。
小泉と話せなかったのは残念だが、罪木弄りも日寄子にとっての数少ない娯楽とも言える。
少し心が晴れた気分であった。

「……さて、お風呂入ろう……」

そう言いながら、服を脱ぎ浴室に入ろうとする。
しかしなかなか脱げない。
不調ゆえか、最近は衣服の脱着にも手間取る始末である。

「クソ、負けるもんか……。私はあいつらとは違う……。選ばれた人間なんだ、強くなきゃいけないんだ……!」

強引に脱ぎ捨て今度こそ浴室に入る。
シャワーを出して、その未発達な裸体に湯を浴びせると逆に頭の中では冷静になれた。

そうだ、私は戻るんだ。
いつまでもこんなところに居てはいけない。
ここには負け犬しか居ないんだから。

再び本科への回帰を決意し、その日は終わった。

夜空に月は見当たらない。
暗い夜には道標となる光が存在しなかった。

-8-
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