小説『Forbidden fruits ―禁断の果実―』
作者:ゴニョゴニョ()

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「はぁ〜……」

 篠宮邸の防音室にヴィヴィの大きなため息が響く。その声の主は壁が鏡張りになっている一角でしゃがみこみ、床に手を付いて項垂れていた。スケートの練習時は結っている金髪が、今は少し乱れながらヴィヴィの華奢な肩を覆っている。

 三月にサロメと出会ってしまってから、ヴィヴィはネットで調べたベリーダンス教室へ通っていた。前もって電話しておいたにもかかわらず、トルコと日本のハーフの美夏先生はスケーターのヴィヴィが訪ねてきたことに驚いていた。しかし、かくかくしかじか事の経緯(いきさつ)を話すと、条件付きでの協力を約束してくれた。

「NHKの密着映像でうちも紹介してくれるなら!」

 金の匂いをぷんぷんと感じさせる条件だったが、こちらの

「ヴィヴィがフィギュアの為にベリーダンスを習っていることは、こちらが良いという時期まで秘密厳守すること」

という条件をすんなり受け入れてもらえたので、交渉は成立した。

 毎週土日は一時間でもレッスンを受けるようにし、レッスンのない日も朝比奈に撮影してもらったレッスン動画を見ながら家でコソ練をするという日を一ヶ月繰り返し、ようやくヴィヴィのベリーダンスは見るに堪えるレベルにまで上達していた。けれど――、

(む、胸……だれか、余ってる胸、私に下さい……)

 美夏先生はヴィヴィのために一連のベリーダンスの動作を組み込んだ振付を考えてくれた。曲は数ある中からヴィヴィが選んだ。Amiret el Sahara(Desert Princess)というダラブッカ(打楽器)を主流としたエジプト打楽器だけで編成された曲だ。

 その曲の振り付けの中でジル(フィンガーシンバル)の音が効果的に使われているのだが、その時の振り付け――胸を左右に大きく揺らす――をする度に、ヴィヴィは自分の扁平すぎる胸に打ちひしがれてしまうのだ。

(いや……世の中見た目だけじゃないよね……じゃないと、ベリーダンスって完璧BODYの人しか踊れないってことになるじゃあないかっ!)

 そう強引に結論付けるとヴィヴィはすくと立ち上がり、振り付けを確認する。チェストサークルというその名の通り胸で円を描く動きをさらう。

(えっと、肩甲骨をくっつけるようにして前に出して、肩甲骨を開くように後ろに引く。胸を自分のできる範囲に左右にプッシュ。頭が動かないように体の中に一本のポールが入っているように、その周りを動くよう意識しながら……)

 美夏先生に言われたことを思い出しながら、少しでも滑らかにしかも妖艶に見えるように動く。腰は動かさずに肋骨だけを動かすのでなかなか大変だ。けれどベリーダンスのおかげか、ヴィヴィは肩や胸、腰の可動域が広がった気がする。

 もう一度曲を掛けようとした時、防音室の分厚い扉がノックされた。小走りに扉まで行って鍵を開けると、三田ディレクターが立っていた。ヴィヴィは彼女を招き入れるとまた鍵を掛ける。ちなみに扉のガラス部分には紙を張り付けて中が覗き込めないようになっているし、扉の廊下側のノブには「ヴィヴィ使用中につき、立入禁止!」というタグがひっかけられている。

「どう、順調?」

「何が……? 胸の成長が?」

 やさぐれたように三田に突っかかるヴィヴィに、三田がくくくと笑う。

「そんな訳ないでしょ〜。ベリーダンスの出来よ」

「ちょうど今から通そうと思ってたところです」

 ヴィヴィはそう言ってオーディオの傍まで歩み寄ると、CDの再生ボタンを押す。笑顔を湛えながら鏡の前でポーズをとると三田がすばやくカメラを構えたのが鏡に映った。

 独特な打楽器の音色が流れ始め、まずは高く上げた両手はそのままに腰だけ躍らせる。腰を前後左右に動かすヒップサークル、腰を振るわせるヒップシュミ、腰を八の字に回すフィギュアエイトをそれぞれ組み合わせながら、次第に激しい踊りへと変化する。ゆっくりと半回転してヒップをポンと突き出してまた腰を回しながら前へと向き直る。

 斜めに構えて腰を上下に動かすヒップドロップで三田を誘惑すると、次はダウンキックという腰を下に落とす方向にアクセントを置いて、上下に動かしながらつま先をキックする動きで挑発したりもする。

 やがて上半身も使い悩ましげに動かされた右手で首の後ろを撫でると、ヴィヴィの暗めの金髪がさらりとなびく。変拍子が多用される難しい曲にヴィヴィは何とか音を拾い、音がぴたと止まるところではポーズを決めて溜めを作り、メリハリのあるダンスを追及する。

 そして曲は問題の部分に差し掛かる。ジルの高い金属音に合わせ早いショルダーシェイク(肩を交互に前後させる動き)をしながら胸を振る。

(そうだよ! サロメも十五歳なんだから、そんなに胸、ないよね!)

 昨今の女子高生の成長ぶりを無視して現実逃避しながらヴィヴィは踊りを進め、終盤のヘッドスライドに移る。顔は真っ直ぐに向いたまま、下顎の骨でリードするように顔全体を左右にスライドする。指先まで表情を持たせた両手は胸の前でクロスし、目の玉をぐりぐりと動かすように頭の動きと同方向へと動かす。

 最後は両腕を広げながら上半身を出来るだけ前に倒し、ヒップシェイクをしながらゆっくりと上半身を起こしていく。ターンを繰り返してラストは片膝をつき、その膝に片肘を乗せて顎を添えるとヴィヴィの五分程のダンスは終了した。

 ぱちぱちと一人分の拍手の音が防音室に響く。

「凄いすごい、明らかに上達してるっ! 動きも滑らかになったし、ちょっと妖艶さも出てきた」

 本当かどうか不明だが、そう言ってヴィヴィの健闘を湛えてくれた三田にヴィヴィは苦笑いを返す。

「ホントに? でもNHKで放送するときは、ヴィヴィの胸とお腹にはモザイクかけといてくださいね」

 ヴィヴィはそう言って胸の下までのトップスから露出している、引き締まったお腹を手のひらで隠した。ベリーダンスにはアンジュレーションという腹筋を使って腹を凸ませたり凹ませたりしながらウエーブさせる動きがあり、それを確認するためにはこのスタイルが一番なのだ。

「あはは、そんなに気にすることないのに。あ、そうだ。今日はプレゼントがあるの」

 一ヶ月の密着ですっかり気心を許しあったヴィヴィに、三田がカバンから何やらごそごそと取り出して紙袋を渡した。

「プレゼント? なんですか?」

 不思議そうに紙袋を見つめるヴィヴィに、三田が「開けてみて」と促す。紙袋を開くと中からは黒色のベールが出てきた。透けるシフォン素材の長方形のそれ周りには金色の刺繍と小さな硬貨の様な金属が付いている。

「うわぁっ! 綺麗……どうしたんですか、これ?」

「いつも頑張ってるヴィヴィちゃんへのご褒美」

 片目を瞑って見せた三田に、ヴィヴィの顔がみるみる綻ぶ。

「わぁっ!! ありがとう、三田さん!」

 ヴィヴィはそう感謝の礼を口にすると、三田に抱き着いた。

「そんなに喜んでもらえて私も幸せ〜。使い方教えてあげる」

 そう言ってヴィヴィの抱擁を解いた三田は、黒いベールをヴィヴィの細い腰に巻きつける。

「こうやってヒップスカートにしてもいいし、ベリーダンスってベール使う踊りもあるでしょう? サロメのダンスも『七つのヴェールの踊り』だし」

「うん! 使う。わぁ……ホント綺麗」

 ヴィヴィは瞳を輝かせて鏡に映ったベールをしげしげと見つめる。少し腰を揺らしてみると、しゃらりと華奢な金属の触れ合う音がするのも気に入った。

「ヴィヴィちゃん、いっつも黒のスパッツとトップスの練習着ばかりだから、たまにはこういうので気分変えてみるのもいいんじゃない?」

「うん! テンション上がるねっ!!」

 ヴィヴィはダンスの一節を試しに踊ってみる。やはり見た目というのも大事だ。練習着だけよりもベールを捲いたことで随分と受ける印象が異なる。

「ありがとう。このお礼はいつか必ず!」

 そう嬉しそうに言ったヴィヴィに、三田はにやりと笑った。

「お礼は、『オリンピック金メダリスト』の独占取材一番乗りでいいです」

 その言葉に、ヴィヴィはぷっと吹き出す。

「う〜ん、保証は出来ないけれど、頑張っていい色のメダル取ります!」

 謙遜したヴィヴィに、三田はあははと声を上げて笑った。







 その翌日、ヴィヴィはまた篠宮邸の防音室にいた。しかし今日は鏡の前ではなく奥にある小さなミキサールームにいた。目の前のパソコンと様々な機器を、ヴィヴィはその小さな頭を抱えて恨めしそうに見つめていた。

(使い方……分かんない……)

 手元には朝比奈が見つけてきてくれた機器の説明書が置かれてはいるが、たいがいの女子というのは如何せん機械やその説明書を読み解くという行為に不得手なのだ。そしてもれなくヴィヴィも苦手だった。機械いじりの好きなクリスに助けを求めようという名案が一瞬頭の隅を横切ったが、ヴィヴィはふるふると首を振る。

「クリスはクリスで忙しそうだからなぁ……」

 クリスは既にSPもFPも曲が決まっていた。振付はまだだが、コーチ陣と振付師の同意もとってあるので今はその準備としてヒップホップのダンスを習いに行っている。SPもFPも決定していないヴィヴィは随分と差をあけられていた。

 そしてヴィヴィは今、件(くだん)のFP「サロメ」の曲を編集しようとしているのだが、初めて触る機械にお手上げ状態だ。

「あ゛〜……う゛〜……」

 不気味な唸り声を上げながら再度機械いじりに着手しようとした時、ミキサールームの壁がコンコンとノックされた。その音にヴィヴィが瞬時に振り替える。そこには匠海が立っていた。

「お、お兄ちゃん! あれ……ヴィヴィ、鍵閉めてなかった?」

「いや、開いてた」

 驚いて問うヴィヴィに匠海は平然とそう答えてヴィヴィに近寄ってきた。

「電気が付いてるから誰かいるのかと思って入ったら、奥から珍妙な唸り声が聞こえてきて……ちょっと気持ち悪かったぞ」

「………………」

(き、気持ち悪いって言われた……)

 匠海の率直な物言いに、ヴィヴィはがくりと頭を項垂れた。

「で、こんな所で何してるの? 自分で編曲?」

「あ……っ!」

 クリスと三田ディレクター以外には秘密で水面下で進めているFPの作成を匠海に知られるわけにはいかないと、ヴィヴィは今頃になって気づく。しかしヴィヴィが取り繕うより早く匠海がデスクの上のCDケースを長い指で摘み上げてしまった。

「サロメ……? また難しいものやるんだな」

「お、お願いっ! マムにはまだ言わないで!」

 速攻ばれてしまった秘密をこれ以上外に漏らすわけにはいかなった。ヴィヴィは椅子に座ったまま必死の形相で匠海を見上げ、神に祈るように指を組んで懇願する。

「え……? もしかしてマムには秘密なのか?」

 驚いた表情でそう聞き返してきた匠海に、ヴィヴィは組んでいた手はそのままに大きく頷く。

「だって、マムはきっとクラッシックバレエの曲やれっていうもん! ヴィヴィ、どうしても今シーズン、サロメやりたいの」

「で、自分で振付してプログラム作ってしまおうと……?」

 あまりに無謀なヴィヴィの挑戦に、匠海はさらに驚いた様子で目を見開いた。

「ヴィヴィだって自分だけで完璧に作れるとは思ってないよ? ただ、今なにもせずにこの曲やりたいって言っても、絶対に聞く耳を持ってもらえないだろうなって思って……それで――」

「とにかく自分の出来る範囲でプログラムを創って滑って見せて、熱意を示そうと?」

 匠海が続けた言葉に、ヴィヴィは戸惑いながら頷く。その途端、匠海は苦笑した。

「ああ、だから最近、一人で閉じ籠っていたんだな」

「うん……防音室占領してばかりで、ごめんね……?」

 家族みんなが使用するこの部屋を独り占めばかりしていたことに気づき、一番使う頻度の高い匠海に迷惑をかけていたのではと、ヴィヴィは頭を下げる。その胸の内で「私って本当に思い立ったが吉日の猪突猛進型……」と深く反省する。

「いや、俺は最近他のことが忙しかったから、別に気にしてないよ」

 そう言ってくれた匠海に、ヴィヴィは内心ほっと胸を撫で下ろす。

「で――、なんかうんうん唸ってたのは、マシンの使い方が分からないんだろう?」

 さすが生まれた時から一緒に居るだけある。匠海はヴィヴィの顔を小馬鹿にしたような表情で見下ろしてくる。

「むぅ……確かにその通りでございます……」

 一瞬頬を膨らませそうになったヴィヴィだったが、素直に置かれた状況を認めた。

「俺がやってやるよ」

 困っているヴィヴィを見かねたのか、匠海はそう言うと「席変わって」と言って一つしかないミキサールームの席を譲らせた。

「え……いいの?」

 言われるがままに席を替わったヴィヴィだったが、慌てた表情で匠海に尋ねる。

「スケートに関して、俺は見てるだけしか応援の仕方がなかったからな……ちょっとは関わらさせて」

「……お兄ちゃん……」

 ヴィヴィはそんな風に匠海が思ってくれているとは知らず、驚いて匠海を見返す。その胸の中は驚きと嬉しさが込み上げていっぱいだった。

(お兄ちゃんが見てくれているだけで、ヴィヴィは幾らでも頑張れるのに――)

「ほら、どう編集したいか言って?」

 ちょっと涙目になってしまったヴィヴィに気付いたのか、匠海は先を促す。

「あ……。えっとね、まず0:05〜1:29を使って、5:20〜6:28と繋げて、8:01〜9:35と合わせたいの」

 ヴィヴィは手元に書き留めていた編集の内容を説明する。すると匠海は慣れた様子で機械を使って編集をし始めた。ヴィヴィは使い方を学ぼうと必死に後ろからその手元を覗き込んでいたが、匠海の操作が早すぎてまったく付いていけなかった。約五分後にはヴィヴィの言った通りに編集し終わった匠海を、ヴィヴィは尊敬の眼差しで見つめる。

「すっご〜いっ!! お兄ちゃん、天才!!」

 出来上がった音源を確認しながらヴィヴィは感激の声を上げる。編集後の音源の時間は4:06でFPの時間である4分±10秒に何とか収まっていた。

「ねえねえ、この音源はどうやってCDに落とすの?」

 ついつい末っ子根性丸出しでそこまで甘えようとしたヴィヴィだったが、匠海に「教えてあげない」と遮られてしまった。

「うぇっ!?」

 まさかこんなところで放り投げられるとは露(つゆ)ほども思わず、ヴィヴィは間抜けな声を出してしまった。そんなヴィヴィを匠海は椅子の上で優雅に長い脚を組み替えながら、肘置きに両肘を置いて見上げてくる。その瞳には何かしらを企んでいる色が見え隠れしている。

「な、なんで?」

「何でもかんでも周りがしてくれると思ったら大間違いだよ、ヴィヴィ。世の中は常に GIVE AND TAKE で成り立っているんだからね」

 そう思わせぶりなことを言って悪そうに微笑んだ匠海の表情は生き生きとしていた。そんな匠海にヴィヴィの胸がムズムズとしてくる。それでなくても匠海は綺麗な顔をしているのだ。これ以上ヴィヴィを虜にするような表情を見せつけるのはやめてほしい――心臓に悪い。

「ヴィ……ヴィヴィは、何をGIVEすればいいの?」

 自分が匠海にしてあげられることなんて何かあっただろうかと、ヴィヴィは声が上ずりそうになるのを必死で堪えながら首を捻る。

「サロメが完成したら、俺に一番に見せること――」

 そう言って椅子にふんぞり返った匠海にヴィヴィは一瞬つまり、やがて「えぇっ!?」と叫んだ。

「だってヴィヴィがそこまでして演じたいサロメなんだろ? すごく興味ある」

「え……あ、でも、振付師のジャンナには振付けてもらえないかもしれないよ? サロメはお蔵入りになるかもしれないし……」

 ヴィヴィは自分でFPを創るつもりでいるが、もしサロメをしていいと許しを得たらジャンナの振り付けで滑る気だった。もしサロメをさせてもらえなかったら、当然ヴィヴィの創ったFPしか匠海に見せることができなくなる。

「いいよ。俺が見たいのは、ヴィヴィの創ったサロメだから」

 意外な匠海の申し出に、ヴィヴィは大きな灰色の瞳を丸くして聞き返す。

「え? 私の振り付けでいいの?」

「当り前だろう? 『リンクでは鬼』のコーチに歯向かってまでヴィヴィがやりたいサロメなんだから。きっとヴィヴィが創った物が一番、お前の気持ちが入ってるだろう?」

「うん……」

 なるほど、匠海の言い分はもっともだと思いヴィヴィは頷く。そう気づいた瞬間、ヴィヴィは自分のFPを匠海に見てもらいたくてしょうがなくなった。サロメのオペラを見たとき、ヴィヴィは自分を瞬時にサロメと重ね合わせて見ていた。



 欲しくて欲しくて堪らないものが目の前にいて、もがいている自分と――。


(サロメはきっと、「今の私」と同じだから……私はお兄ちゃんに「今の私」を見て欲しい――)



「ヴィヴィからも、お願いする……お兄ちゃんに私の創ったサロメ、見て欲しい……」

 意を決してそう匠海に伝えたヴィヴィに、匠海が微笑を深くした。

「じゃあ、せいぜい俺を『ヘロデ王』だと思って、必死に誘惑してよ?」

 匠海はサロメの義理の父――好色で野蛮な王が自分であると例えて、挑戦的な瞳でヴィヴィを見上げてくる。

「えぇっ! お兄ちゃんが『ヘロデ王』〜?」

 ヴィヴィの中では匠海=サロメが恋に落ちた預言者ヨハナーンだったのだで、あまりのミスキャストにヴィヴィは嫌そうな顔をする。

「だって使う曲『七つのヴェールの踊り』だろう? あれ、ヘロデ王の前で裸踊りする曲じゃないか?」

 確かに匠海の言う通り、いくつかのオペラでは『七つのヴェールの踊り』で最後にすべてのベールを取り払って裸になる演出が組まれている。だからと言って「裸踊り」とは酷過ぎる。

「ヴィ、ヴィヴィは裸踊りを目指してるわけじゃないもんっ!」

 ムキになってそう捲し立てたヴィヴィだったが、匠海は「はいはい」と軽く妹をいなすと目の前の機械に向き直り、音源をCDに落としてくれた。

「じゃあ頑張ってね、サロメ王女様?」

 匠海はそうヴィヴィをからかって立ち上がると、CDケースをヴィヴィの頭の上にポンと載せてミキサールームから出て行った。

「もう……お兄ちゃんたら……」

 ヴィヴィは頬を膨らませながらも心の中で匠海に感謝を述べると、頭の上のCDを取り胸の前でそれを抱き締めた。


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