小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 仕事熱心の郵便配達員(ポストフ)には仕事熱心とはいえない返事をもらう。
「この塔について? 知らん。ひとつ下の階と合わせて三千九百六十七軒、局の管轄はそこまでだけど何か?」

 前に演奏しにきたときは、たまたまいなかったけど庭園に住んでいるとしか思えない不思議なお兄さんにも訊ねてみた。
「下の階のこと? ……話したくないな。上の階のこと? 興味ないね、ここで十分天国(ヘヴン)さ」
 庭園のお兄さんが草むらに寝そべりながら答えてくれた。でも僕だって庭園好きだけどそれは大げさだと思う。

 今度はこの階の掃除婦さんに質問してみる。
「変なことを聞く子だね、わたしゃ上も下も知らないよ。だってこの階で暮らすのに必要ないじゃないか。それよりあの庭園の若者が何者か知りたいよ! ねえねえ聞いてきておくれ」
 ソレーはうなだれる……みんなもよくわかってないみたいなので僕はこの目で確かめてみることに決めた。

 中央縦貫昇降鉄道(セントラルエレベーター)は一階分の昇り降りだけでお札一枚もかかる。僕の貯金だと「空中庭園階」までしか乗ることが出来ない。結局階段でいつものように降りることにした、そうすればタダだしね。鉄道料金高すぎだよと不満はある。

 降りる、ずっと降りる。ひたすら降りてゆくと四百階で階段は途切れてしまった。
「ボウズ、出国許可証を見せろ」
 軍人っぽい国境番のおじさんに聞くと三百九十九階から下は別の国なんだという。僕はこれ以上降りれない。
「天国への入国許可証ならここに」
 ソレーが胸付近を指さすとそれなら「上へ行け」って怒られた。
「ここでもまだ雲の上なんだ……」
 登る前に空の景色を眺める。怒られて当たり前のことをしたソレーは、次に上に登ることを目標にした。
「さすがに昇りは大変だァ」
 汗を拭いながら昇り続けた。だけどいろんな階があって面白い。騒騒しい「工場団地階」・賑やかな「市場街」・動物しか見えない「牧場街」・何があるかわからない階(七百三十三階)もあった。

 昇る、行けるところまで。だけどさすがに八百階近くで足がおかしくなってきた。上へはまだ続いている、本当に千階いや千二百階あるのかな?
「人間ってすごい…………」
「どうした少年?」
 同情してくれたこの階の親切な人が下の階のことを教えてくれた。



※これも100ページ到達ですね。応援コメントを頂いている皆さんに感謝します。ありがとうございます^^

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