小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 卓樹はママがいないの?」
「あー……うん。二年前から兄ちゃんと二人なんだ」
「俺のことよりルベーはどうなんだよ、父ちゃんがいるんだよね?」
 聞かれたことを嬉しがっているルベーが活き活きとした表情で冗舌になっていった。
「よくぞ聞いた! 驚けよ、うちのパパは」
 その後に一呼吸おいて
「おうきゅうきしだんふくにゃにゅにょーにゃーんだ!」
「え!? にゃんですと!?」
 
ルベーの噛み噛みな台詞をイールさんが料理しながら直す。
「王宮騎士団副団長です。騎士の中でも最高峰とされる王宮騎士団、叡知(えいち)を誇る賢者であり武道を極めた闘士です。王族から格別の寵愛(ちょうあい)を受け、絶対の信頼に置かれています。その中でルベー様の父上は誰より……」
イールさんが何を思い出したのか恐怖のあまり体を震わせている。包丁を持った手でジャガイモと一緒に手を傷つけているのに気がつかないくらいの動揺っぷりだった。
「強い人なんですよォォォォォ」
 卓樹はイールさんに気づかせようと、切羽づまった声をかける。
「切ってるよ! 自分の手ザクザク切って血がドクドク流れてるよ!!」
「隠し味?」

 イールさんが異常な行動に走るくらいなのかと卓樹はルベーに父親について尋ねた。
「もしかしてルベーの父ちゃん怖い人……?」

「私には優しいよ」
「ルベー限定?」
 父親のことを話しているときのルベーはとても嬉しそうにしている。
「すごく強くて優しいの。それでかっこよくて偉いんだ♪」
「金貯めてプレゼント買うんだって?」
「パパには内緒だよ。ビックリさせるんだから!」
 動機が可愛らしいので(やっぱりコイツ可愛い表情する)と思う。そして何を買うか聞いてみた。

「永劫の闇をもたらす血肉に飢えた伝説の魔剣・デビルサーベル」
「なんですか。その世界征服に欠かせなさそうなアイテムは」
「とにかくナマモノが好きな剣でな。常に生肉生皮ナマハゲを切りたがるらしいよ」
「怖いわ! ってナマハゲ!?」
 秋田の方、逃げて〜〜〜

-110-
Copyright ©下宮 夜新 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える