いつの間にか正気に戻ったイールさんが鍋を持ってきた。匂い的に煮物であろう。
「できましたー」
「早っ」
一口食べて那砂が一瞬止まった。
「……うめえ」
料理が感動するくらい美味いって訳でもなく、しばらくまともに食事をしなかったからだろうから、卓樹は兄の那砂に「泣くな」とツッコミを入れる(僕が学校行事で三〜四日間作りようなかったし)
「那砂! 七十円+五十円で百二十円だ!」
(足し算はできるんだ……)
小銭入れから那砂がお金を渡そうとするが、
「あっ十円玉がないな」
「何ぃ!?」
「いいか、百五十円やるよ」
予定よりお金をもらえてルベーが目を丸くしていた。
「お……、おぉ――! 汗水流して得たお金は重いな!」
「気になってはいたけどほとんどイールさんの働きだよね?」
行儀悪く那砂が料理を食べながらルベーとイールさんを送る、それについては後で卓樹が注意しようと決め、また仕事に来るように誘う。
「また来いよ」
「そうだよ、今度はいつ来れそう?」
二人に聞かれてルベーが次に来れる日を言う。那砂に異論はないようであった。
「うん! 明日来る!」
「早! 本当に!?」
「ずっと来るぞ」
その後にルベーが余計なことまでつぶやいているが、那砂は料理に夢中で気づいている様子はない。
「こんな金ヅル放っておくようなバカではない!ずっとここで雇え!」
(金ヅルか―――ー……)