「お前せっかく整理したモノに何してくれてんだぁ!!」
遠い目をしながら木曜子が課長の怒りを逆なでする言動をした。
「チミさぁ、石を並べて水の流れを表現しちゃうような日本人のわびさびの心を忘れたのー?」
「お前こそ礼節をわきまえる日本人の心はどうした!!」
入口で待っているしかなかった鷹上が課長に訴えかける。
「あの……僕だって仕事でここに来ているんですけど」
彼が悔しそうに散らかっている資料をまとめ直している課長に声をかけた。
「そういえば課長さん、ちょっと気になったんですが」
「くそー、なんだい鷹上くん」
「きよさん……でしたっけ……あの……さっきからずいぶんと横柄な態度で仕事に臨んでいる印象ですけど……注意しないんですか?」
今も木曜子がポ。キーらしきお菓子を小動物かのようにちまちまとポリポリ食べている。課長は彼にだけ聞こえるかのような小声で扱いに困っていることを鷹上に伝えた。
「いや……今いちつかめない子でさー、最近急にこの課についたんだ。あんなんで会社受かるんだからきっと社長の孫か何かじゃないかと思うと強く言えなくてさ……」
木曜子は全く何もしないという訳ではなく、お菓子を咀嚼しながら片手間で探している(勤務態度としては何もしていないと大差ない働き方だが)
管理課課長が失念しているようなので鷹上がそうした方が早いとばかりに木曜子に「あなたの父親の職業は?」と聞く。課長はどんな答えが返ってくるのかとドキドキものだ。
「じゃあ聞いちゃいましょう。あの……きよさんのお父さんって何やってるんスか?」
質問に気づいた後、木曜子がお菓子を飲み込んでだるそうに答える。
「マジシャン」
管理課・課長と鷹上くんの時が一瞬止まった。
「ちょっ……お前なんで父親マジシャンでそんな偉そうな態度とれんの!?」
今まで我慢してきた不満を課長が木曜子に怒鳴りつける。
「あー、お前マジシャンバカにしてんじゃねーよ。お前消すぞー、うちのパパに手品で消してもらうぞー。うちのパパ消したっきり出さないんだからなー、放棄すんだからなー」
鷹上くんは今の状況では待っているしかない。怒り続けそうな課長であったが急に冷静になった。