小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 翔のクラス、国語の時間。国語担当教師が教科書のテスト範囲を黒板に板書する。
「ここはテストにでるので各文章を十回ずつノートに書いて覚えてください」
 教科書約五ページを書かないといけないのでイライラしている級友が多いと思われる。俺もその中の一人であった。
「ちくしょー、マジめんどくせー」
 こういうちまちました作業が嫌いな俺は人よりイライラしているかもしれない。

「仕方ありません。これも授業ですから」
「くそ……」
 他のみんなが書いている音が耳に残るので手を止めると滅入ってしまう。だから翔もペースが遅かろうと書き続ける。
 そう励ましながらもアトは機能の中にあるレーザーコピーでノートに書き写していく。
「おい待て、それすっげー卑怯じゃね?」
 気が滅入っているのにそんな反則技を見せられてはやる気が削がれるというものだ。

「確かにフェアじゃありませんね皆さんと同様のやり方で勤勉に励みましょう」
 アトは俺の冷たい視線に配慮したのかレーザーコピーをやめる。
「……ん? お前筆記用具あんの?」
 なんだか雰囲気的に怒っている感じがした。
「当然です」
 アトは持ってきたカバンから字を書くための道具を出そうとしている。

 カバンから用意された道具は筆と墨汁である。
「日本の必須アイテムですからこれくらい携帯して当然です」
 そう答えながらアトは教科書の文章を半紙に書き写し続ける。
「とりあえず墨汁を飛ばすのだけはやめて」
 アトが勢いよく半紙に文章を書き写すたび、翔の顔や制服・机などの筆の先の墨汁が飛んでくる。俺はその書き方をやめるようにアトへ伝えるのであった。

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