小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 午後の時間は科学が二時限ぶんある。今日はくしくもロボットについての授業内容の続きだ。
「――と工場から介護までロボットが活躍している場所もあります」
 生徒から年齢不詳で若作りしているような、でもベテランの雰囲気があるんだよな〜と不思議がられている美人な三十代(?)科学教師の授業は好評である。

「でもどんな仕組みでできているのかな。先生、一度中身を調べてみたいなぁ」
 この科学教師が人気な秘密は、生徒が考えそうなこととか好奇心を隠さずにさらけ出しているからかもと俺は考える。アトが科学教師の話に反応した。

「じゃあ次は右ページの……」
 反応したアトが席を立つ。
「中身を見せてやろうとか考えるなよ」
 アトが何かしようとしている感じが察しやすかったので俺は止めた。
「駄目ですか?」
「ダメ絶対」

 午後の科学の授業二時限目(六時限目になる)、科学教師と一緒に校庭(または中庭)で一クラスの面面が微生物を採取していた。理由は科学教師の<微生物を顕微鏡で観察し、レポートにまとめましょう>という課題だからだ。
「地味にメンドクセー……」
 土いじりはガキの頃はともかく、今はだるいが先立つ。

「と、仰っていたので土を採取してきました」
「おお助か……って口に入れるな!!」
 アトが手伝ってくれたのでお礼を言いかけたが、口の中に土を入れていたのでやばい行為だと注意してしまった。
「生物データを取得します」
 ロボだからアトにとっては普通に可能なことかもしれないが、土を飲み込むアト。さすがに翔はものすごく驚く。

「飲んだァ――ーーーー!!」
 アシストロボットの機能からかアトが土の中にいる微生物を分析する。
「ムカデ・ダンゴムシ・もぐら・ミミズ・アリ・ん?これはカブトムシの幼虫?」
 アトの口の中から土から出てきたと思われるミミズがはみ出してきたので俺は気味が悪くなって叫んでしまった。
「イイイイイヤアァあああ―ーーー――!!!!!」

※イラスト予定

 誰も見ていなかったので俺はアトを連れて体育倉庫裏で落ち着くまで待つことにした。
「つ……疲れた……」
「すみませんアトのせいで……」
 一応自分のせいだとの自覚はあるようだ。
「ああ全くだ……」
 優しい声で感じたままのことをアトが俺に伝えてきた。

「でも……アトにとってはとても充実した一日でした。翔様には感謝しています。ありがとうございます!」
 アトの微笑みがロボ機能の範疇を越えて、同年代の生身の少女に笑顔を向けられたという気がして俺はキューピットから矢を打たれたかのごとくアトにときめいてしまう。

「キャアアアア翔様、どうなさいましたかー!?」
 アトが俺の理解しがたい行動に驚いている。
「あああああどおおおおお、のおお」
 不覚にもときめいた自分に自己嫌悪した俺は壁にオデコを打ち続けてしまっていた。
激動の一日だったが、授業の終わった俺はアトと一緒に即帰宅して自分お父親へ電話をかける。
「おいオヤジ、注文通り学校行ったぞ」
『何も問題起きなかったか?』
「なんとかな……」
 隣のアトが、お絵の電話相手が誰だか気づいたようである。

『よし、それじゃあ明日からもよろしくな』
 何を言っているのかと俺は理解を拒否っている感じになる。
「……?…………は?」
 アトがいつの間にか聞き耳を立てていた。
『アトはお前のために作ったんだ。だからよろしく☆』
 嬉しさからアトが表情を輝かせている気がする。

「ちょっと待ち……おいっ!」
 一方的に電話が切れた。
「翔様!これからもよろしくお願いします!」
「は? あ? はぁあああ!?」
 かくして二人(?)暮らしが始まったのでした

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