小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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「それじゃあよろしく」
 馬山さんは店長に仕事を任せられるくらいのようだから主任級(クラス)なのかもしれない。
「はい。店長、お任せください」
 店長は新人の私と高橋さんに向かって行ってくるというジェスチャーをした。

「私は車でカミングス――ン」
「!?」
 馬山さんが簡単に教えてくれた。
「店長はしばらく仮眠するから指示は僕が出すよ」
「親父ギャグ!?」


「ところで猫好君」
 馬山さんが改まって聞いてくるので私は緊張気味に応じる。
「はい! 何ですか?」
「猫は好……」
「普通より好き程度です。店長にも聞かれました」
 会う人のほとんどに聞かれる質問なので、質問を食い気味に返した。

「……そうかい、残念だよ」
 馬山さんが何を残念に思っているか分からないが、そこから話題を広げようとでもしたのかな?
「ちなみに……僕は馬山だけど馬を飼ってはいないよ!」
 当たり前だろうと思われることを伝えられても私はわかってます以外答えようがない。
「アタシは高橋だけど猫を飼ってるわ」
 彼女が馬山さんに追随して携帯電話の待ち受け画面を私に見せてくれたけど、少し考えればこうなんだろうなと思った。
「ネコ自慢したいだけでしょ!?」


「さて、猫好君、君にもこれをあげよう」
 馬山さんが制服のポケットから出したのは『研修中』の安全ピンで留める名札だ。
「多少の失敗は許されるという……研修生の名札ですね!」
 実際は可能な限り早くここの仕事を覚えて研修期間を終わらせるべきだが、あながち間違いとはいいきれなかった。

「ふふ……そうよ」
 高橋さんが研修用名札があれば助かることを一気に話す。
「お釣りを間違えたり商品を入れ忘れたり…何度でもってわけじゃなくとも許されるのよ!!」
 経験ありそうな口調で高橋さんが言うので私は聞いた。
「高橋さんは大助かりだったと!」
 図星をつかれたのか、彼女の声が上ずった。

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