小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 それでも帰らないことのあるスーテンという剣士。彼がいると他のお客さんが敬遠してしまうので(雰囲気などが原因)武器屋連合の情報通り、しばらく鍛冶を続けて少し見せてやれば帰るという話のもと、実践開始。見られていると気になるが仕方がない。
「見させてもらう。気にせず続けてくれ」
 普通誰でも視線を感じながら作業なんてしづらいだろうと思いつつも、ビーメは極力気にしないように作業を続けようとする。その時、何か物音がするので音のした方に向くと(何してんだ〜この人――――――――!!!)
 鍛冶で打ったばかりの棍に頬ずりをしている剣士。今までは我慢してきたみたいだがこの日に限って。ビーメは驚きで声にならない。剣士は何事もなかったかのように去っていった。 それからしばらく街をさまよっている剣士、当然街の人から独特の雰囲気があるので遠巻きにされてしまっているが噂だけは耳に入ってくる。

「おっ、おい見ろよあの顔の火傷」
「きっと死闘の痕」
(鍛冶で見た素晴らしい棍が原因だなんて恥ずかしくて言えやしねえ)
 剣士スーテンがそんなことを思っているとは街の人はまず考えないであろう。仮に釈明しようと声をかけたところで、会話になりもしない不幸な人物だったとしても。


 ある日の朝の風景、食事の下ごしらえのためにルートの朝は早い。アクビを大口開けてすればだいたい眠気に何とか打ち勝てる。そんなのは獣人ルートだからかもしれない。しかし、サカエの朝はもっと早い。フライパンから焦げた匂いがし始めている。
「おはよう!朝ごはん作っているぞ」
 何度もサカエの料理を見てきたルートが下手の横好きのサカエに冷や汗をかきながら遠まわしにやめるようにもっていこうとしているのだがまだ成果は出ない。

「サカエの料理、命がいくらあっても足りないポン…」
「大丈夫、食えるから」
 サカエが食べれるといったフライパンの中にある料理から紫の煙が出ている。調味料を入れているようなのだが、ルートはサカエの料理のやばさに近づくことさえ二の足を踏んでしまうので実際何を入れているか見たことはなかったりする。
「解毒剤の在庫はまだあるあるー」
 サカエが自信を持ってこんなに笑顔で安心を強調しているかわからないが、解毒の必要な料理(全然大丈夫じゃないポン)を前にすると、ルートの心の叫びが過剰じゃないというのがわかるというものだ。

-20-
Copyright ©下宮 夜新 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える