小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 その隅の一角で店員が何かを泡立てている音や、食器を用意している音などが聞こえる。どの男達もどこかソワソワしている感じだ。空気が張りつめていた。
「お待たせしました」
 自分以外の人の注文が来ても誰も視線をそちらへ移さない。それだけでなく誰もが視線を合わせない、まるでそれが彼らの暗黙のルールなのかにように。イナールが自分が頼んだケーキを食べ終わって至福のひとときを味わっている頃にサンが戻ってきた。
「イナール!ユニコーンの森には金色の樹があるんだよね?妖精の森で見たって人がいたよ。行ってみる?」

 この酒場のケーキが美味しくて満足したイナールは首を少しおじぎのように動かしてそこへ向かうと意思表示する。
「ケーキ、美味しかったんだ〜」
 屈強な男達はサンに「余計なことを言ってくれるなよー?」と思いながらビクビクしたりドキドキの感情を抱えつつもアイスクリームやホットチョコレートなどをそれぞれが口に運んでいた。サンはこの場所が男達の甘いものをひっそり楽しむ安らぎの場所だと知っているのでそっとしておく。 この場所の礼儀的にもそれが一番良い。イナールは甘いもの大好き。

 街の入口にいるはずの門番さんがいなくて不思議がるサンとイナール。
「あれ?ガーディアンさんいなくな〜い?食事かな」
 街の入口付近に人影を感じなかったのでイナールを元の姿に戻した。
「じゃあ元の姿に戻れ〜」
 ヌイグルミ状態から煙を出して元の姿に戻ったイナール、巫女にしか聞こえない念話のようなもので心配の気持ちを伝える。

(こんな場所で戻して大丈夫?誰も見てないよね!?)
「あっははー、大丈夫だよ!怖いのはガーディアンさんだけだし」
 しかし、門番さんは門の横で立看板の修理をしている最中であった。修理に集中していたのでイナールがユニコーンに戻るところを見られなかっただけで運が良かったとしかいえないであろう。
「小魔獣ごときの捕縛で看板を壊すとはうかつ…。しかし、何故空から?」
 その小魔獣とはイナールが吹き飛ばしたスネクンのことである。気づいただろうか?
「ん?」
 立て看板を立て直そうとしている時にサン達に気づいた門番さん
「お疲れさまでーす♪」
 門番が遠目に見ているうちにサン達、近くに門番が来る前に急いでその場から逃走するサン達なのであった。

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