小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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「この方はクラスメイトの真水君、不審者じゃないわ」
「そうでございましたか!!」
 お嬢様より説明を受けて敬礼をするボディーガード、良く考えれば矢野原さんはお嬢様なんだからボディーガードがいてもおかしくないよなーと考えながら真水君はボディガードさんに申し訳ないという表情をすることしか出来ない。

「迷惑をかけてしまいましたわね、せめて私の家でお茶でも飲んでいってくださいな」 
 ボディガードが仕事に忠実なのは良いと思うけど、と思っていそうな感じの若干困り顔な矢野原さんに真水君は誘いを受けた。
「あっ……喜んでっ!!」
 理由はどうであれ、矢野原さんの家に招待されることになった真水君、断るはずがない。

(わーい♪愛しの矢野原さんの家に行けるぞっ!)
 嬉しさで胸が高まっている真水君は夢心地である。
「まだこっそり付いてきているけど気にしないでね」
 街の商店がある道に草は似合わないのでバレバレだ。隠れる気がないんじゃないかと疑ってしまった。
(こっそり…?)
 真水君は疑問を感じているが、銃口を自分に向けられている気がしたので下手なことは言わないようにした。

 理由は不明だが豪邸の勝手口から招き入れてくれた矢野原さんが客室に案内してくれるのかと思ったが、予想外なことに自分の部屋へ案内してくれた。しかも、使用人さんがお茶を運んできてくれるものかと思っていたら矢野原さんが持ってきてくれる。
「紅茶で良かったかしら?」
 好みの女性の部屋に入れてもらった時、大きな子グマのヌイグルミがあったのでそれだけは忘れないようにして彼女にプレゼントを考えた真水君はお茶を持ってきてくれた矢野原さんにお礼を言った。

「あっ、ありがとう」
 純粋に紅茶を楽しんでもらおうと持ってきた矢野原さんに紅茶をすすめてもらう。
「これは私のお気に入りの紅茶なの。お口に合うといいなぁ」
 花のように香しい匂いがするこの紅茶の銘柄は『ローズヒップ』という種類だと教えてもらった。
「美味しいよっ」
 矢野原さんの笑顔が見れただけで満足な真水君は胸の鼓動が大きくなっていく。

(こんなドキドキしてて味わからないけどね…)
「良かった♪」
 矢野原さんに喜んでもらえたのは嬉しいのだが、真水君は嫌な予感を感じた。
“早く帰りたい”
 大きな子グマのヌイグルミからのぞく視線に真水君は涙目になった。 憧れのクラスメイトと一緒で幸せな気分をぶち壊されて恐怖を感じる。

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