オカンが成長している感じは気のせいじゃなかったのかと俺は今更ながらに思う。
「そ、そういえば」
「見るか…この…胸のふくらみ…」
「うわあああ、やめ――!!」
俺は若い状態のオカンに誘惑される。見ないようにしてオカンの動きと声をシャットアウトしていた。
「ホラ!何や女性らしくなってきたやろ?」
オカンが自分の体を使って保健体育を教えようとしてくる。
「アツシ…これは第二次性徴いうてな…女性は女性らしく」
「ババア!やめろ!!」
さすがにそんな話を聞きたくない俺、耳を手で塞いで聞こえないようにした。
「四日経っとるから、かーちゃん今アツシとタメ年やで!!」
小走りで寄ってくるオカンから俺は逃げ出すように玄関を出る。
「行ってきます」
出がけの挨拶をした俺の声は少し涙声だったかもしれない。
月曜日の放課後、高校生年齢になったオカンはファッションを楽しみ始めていた。好きにすればいいけど親友と遊ぶから絶対に部屋に来るなと念を押しておく。
「今日シュウスケがくるけど!絶対顔を出すんじゃねーぞ!!」
「あー」
シュウスケと俺はたわいもない話で盛り上がる、例えば「でさー」「マジでー!?」といった会話だ。親友との時間ほど楽しいものはない。そんな時、開くはずないはずのフスマがあいて俺の時が一瞬止まる。
「いつもアツシが世話になっとります。まんじゅう食べや」
俺はふざけるなよ、最悪だと顔に出していたが、シュウスケは偶然若いオカンの胸元が見えて鼻血を出してしまっていた。俺を見ていなかったので何とか助かった。
シュウスケが遊びに来た日の四日後に月曜日のことを問いただしてきた。微妙に顔が赤いということは少し年上のオカンが気になる存在になってしまったのだろう。
「アツシ…この前のお前の家にいた女…誰や!?」
「ね…姉ちゃんだよ」
しかし、親友で幼馴染のシュウスケを誤魔化せるわけがなかった。
「うそつけ!!俺はお前の幼馴染やぞ!お前、姉ちゃんも妹もいねーだろ!」
周助に問い詰められた俺は信じてもらえないだろうということを承知の上で白状する。
「実はかくかくしかじかで…オカンなんだよ」
せっかく本当のことを話したのにシュウスケは「うそつけー、うそつけーと騒いでいる。もう家に連れていった方が早いと思った。
「何だったらウチに来いや〜!」
シュウスケと一緒に家に帰ってきた俺は机の上に夕食とメモが置いてあるのを発見した。
「あ」
俺の親友シュウスケが信じたかどうかわからないが、二十歳になったオカンが飲みに行っていて良かったかもしれない。