小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 いろいろあって更に六日後、俺は二十六歳になったオカンに無理矢理買い物に付き合わされていた。
「なんや、アツシ!かーちゃんと出かけるのがそんなに嫌か!!」
 近所のスーパーが特売だからって付き合わされた俺は動きが挙動不審にならざるを得ない。
「こんなところ誰にも見られたくないねん」
 俺の気持ちを考えてくれず、オカンが自分の都合を押し付ける。
「買いもんくらいついて来いや!!荷物重いねん!」

 レジから会計が終わって俺のオカンが俺の胸ぐらをつかむという姿を菜花さんに見られてしまった。
「こんだけのもん、一人で持って帰れへんのじゃ!!」
「あれ〜?」
 あまり紹介したくないが俺は菜花さんにオカンのことを話す。
「実はアレ…オカンなんや」
 オカンの俺に甘えている声「アツシー!!アツシちゅわ〜ん」を無視して今の状況を俺は菜花さんに伝えた。
「へえ―――――。あっそ…………」
 彼女はリアクションに困っている様子だった。これで俺が菜花さんに距離を置かれたら立ち直れそうにないと感じる。



 会いたくない場所で菜花さんに会ってから二日後、オカン二十八歳はキャリアウーマン風・三十一歳で芸能プロダクションの秘書風・三十六歳で洋服店の店員風・三十八歳で小料理屋の女将な感じとオカンが今まで経験したことのある仕事の格好を見せられてもう俺は疲れはててしまった。
「ただいま」
 約一ヶ月半の海外出張から帰宅してきた父、俺は変化していく様を毎日見ていたから知っているが、父親にとっては何も変化しているところがないと思うだろう、証拠も残したくなかったから何一つないしね。
「何だ、ちっとも変わっとらんやないけ!」
「ホンマやねんて!!ホンマに!なあアツシ!!」
 やっといつもの年齢に戻ったオカンが俺にフッてきたが話す気はない。今までのことは幻覚にすぎないと信じたいから―――

「うわぁぁぁぁぁ――!!」
 俺はもの凄く嫌なことがあったかのように布団から起き出すとき、体中に冷や汗をかいているのがわかった。

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