小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 どうやらわっちが叶えたと思っていた絵馬の願いは叶っていなかったようである(受験生は合格したみたい)理由は簡単、絵馬を書いたと思われる人物が神社に聞いている神なんていないだろうと前置きした上で文句をつけていったからだ。 わっちはその人物の前に出てどうして欲しかったか聞こうとしたが、空腹で動けなかったので断念した。神なので空腹で死んだりしない。だが、人間の気持ちを知るために人間と同じ感覚を持っているのがこれほどつらいとは。

「あ゛あ゛〜お腹すいた……家(神社のほこら)に生えていたキノコも食べちゃったし……もう何もない……ど――しよ――……」
 空腹感で幻覚でもみそうな勢いのわっちはお地蔵さんに気がついた。
「あ」
 地蔵がわっちを見てビックリし、困っている様子になっている。ここからは土地神であるわっちと、お供え物を置く人がいるくらい身近なお地蔵さまとわっちの神同士でしかわからない会話を始めた。

 わっちは見ての通り空腹で苦しんでおる、そのお供えものを恵んでもらえぬだろうか、のう、地蔵よ!!(神通力で通じあっていると考えられるだろう)
 土地神の迫力に気圧されながらも、それから汗でもかいている感じでお地蔵さまも反論する。
{しかしこれは私のために願いを叶えてくれと頼まれてお供えされた品、おいそれとわたすわけには}


 

 最近物知りのキツネさんと仲良くなったわっち、このキツネは前にお願いをしていた子ぎつねだ。わっちは神社の屋根の上でキツネに世間話がてらお金がなくて大変という話を語る。
「ねぇ、きっつん。どーやったらお金をうまいこと稼げるかな」
 その話を聞いたこのキツネが葉っぱを一万円札に変化させる。実際に使いたい衝動があったが抑えてキツネの変化術に感嘆の声を上げた。

「何だ金が欲しいのか? じゃあやるよ、ホレッ」
「うぉーっ!? 万札だ!! スゲー!!」
 キツネの出したお札を見ると何か違った。一万円札と印刷されてはいるが、よく見ると樋口一葉さんである。
「一万円札って女の人だったっけ? あれ? ヒゲの人だったっけ?」
 わっちはたまにお賽銭箱に小銭が入っていることはあってもお札をここ数年見ていないので忘れそうになっていた。

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