小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 真坂達のクラスニーAの家庭科の授業、調理実習中
「温泉タマゴって温泉で作るものじゃないの!?」
 家庭科室の黒板に書かれている材料に真坂がビックリしている。衝撃だったようだ。黒板には「材料 卵 1/湯 適宜」と書かれている。
「え? 温泉でしょ?」
 真坂の疑問に答えながらゆかりが何か粉末状なものをお湯の中に入れている。
「でも材料にはお湯って書いて・・・」
 
 お湯が入っているナベから匂ってくる香り、 お湯の色とゆかりが捨てた袋に真坂は驚きを隠しきれなかった。
「おっ……温泉の素で!?」
 真坂はゆかりの行動に驚きよりも戦慄を覚えた。
(しかも色がピンク……!!)
「これぞ本場!」
 だが、ゆかりが得意げなので何も言えない。

「はいっ、あ―――ん」
 やたらと優しい笑顔で食べさせてくれようとするゆかり。真坂の(自分で食わんのか!!)という心の叫びなど聞こえないのだろう。
「ちょ・・・!! ちょっと待って! 止めてえぇ――!!」
 ゆかりが問答無用で食べさせようとしてくるのでさすがに命の危機を感じた真坂。 涙声で足をじたばた動かして嫌だという意思表示をした。 

 黙って離してくれたゆかり。
(あ…………諦めてくれたのかな?)
 真坂がホッと一安心したのはつかの間、ゆかりに調味料を近くまで差し出されて一言
“問題点は味じゃないよ”
 きっとそう伝えてもゆかりに通じないんだろうな、助けて先生。

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