小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 ある日、小次郎はお地蔵さまと泉のある水辺を見つけて良くその場所に遊びに行っていた。泉から透明な歌声を発する少女が顔を出している。
「最近帰りが遅いと思ったらこんな場所で何してんだ」
 源気の口の悪さはどうやらずっと前からのようだ。彼に気づいた小次郎が見たままのことを伝える。
「おじたん、おねーたんがぬまにいる」
  
 舌っ足らずの声で小次郎が泉を指さした。
「オネータン? 魚か?」
 源気が泉をのぞきこんでみる。しかし、特に目につく生物はいなかった(たぶんカエルとかはいる。何かをそう呼んでいるだけだろう)
「おじさんには見えないのよ、叩いても気づけないし」
 
 泉の精霊が源気の弁慶の泣き所にパンチする。小次郎はおねーたんの行動に戸惑っていた。
「うお、何でだ。すげえ痛いぞっっ!! オレのゴールデンフットに何が!!?」
 源気は痛みのあまり地面に膝をつける。
「こいつ、あほだな」
 泉の精霊は源気の言動でそう思ったようである。小次郎はおじたんを心配していた。

 このお寺で養ってもらって二〜三ヶ月もすると、和尚さんに助けてもらったということを小次郎は何となくわかってきていた。小次郎は和尚さんを好き(尊敬する)人物だと感じるようになってきている。
「小次郎はほんに賢い子だな」
「おきくなったらおぼうたんになる?」
 小次郎のあどけない問いかけに和尚さんが自然と柔和な笑みを浮かべた。
「ははは、なりたければなるが良い。よく学んで頑張るのだぞ」
「なれなかったらおいだす?」
 小さいながらも大きくなった時のことを小次郎は心配だったのだろう。和尚さんはそんな小次郎に和む。
「はっはっはっはっ、そんなことはしない」
 そんな和尚さんの姿を見て小次郎は心配の気持ちが少なくなった。それから和尚さんがお坊さんについて語る。
「しかし、あれが最低ラインだ、心せよ」
「じゃあへいきだ。よかった」
 小次郎や和尚さんのなんとも言えない視線を感じたお坊さん、源気が二人を指さして叫んだ。
「そこ、何かムカツク話してるだろ!!」

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