「いい布があったから小次郎君にどうかと思ってねぇ」
町の裁縫好きの奥さんから善意でもらった子ども服、小次郎が珍しそうにしていた。
「これはよかったのう。良く似合っておるぞ」
裁縫好き奥さんは小次郎の嬉しそうな表情を見ただけで満足そうにしている。
「よそ行き用に大事にしまっておかないとの。さっ、脱ごう。ん?」
小次郎がむずがる素振りを見た和尚さんは――――――
「何だまだ着ていたいのか? ははは仕方ないな」
そのまま走り出した小次郎に和尚さんは注意する。
「これ、汚すでないぞー」
今、小次郎の服を見た源気が小次郎の服を褒める。
「おっ、何だいいなコジー」
源気に声をかけられた小次郎が近づかないでとジェスチャーを送った。
「あっちいってよごれる!!」
さすがに声をかけただけでそんなことを言われたら怒るのも無理はない。
「何だとてめえ、泥まみれにしてやる!!」
そんないつもと大差ないやりとりを見て和尚さんと裁縫好き奥さんが談笑していた。
「あんなに気に入って」
「良かったわー」
相性が悪そうで悪くない源気と小次郎は和尚さんのお使いで人気のお茶を買い求めに来ていた。洋の国からの品、『フレーバーティ』なるものらしい。商品は売り切れないと店主が店前にて大声を張り上げているので安心だが、行列の長さに小次郎へ前を見てくるよう源気は頼む。
「えらい行列だな、ちょっと前を見てこい」
「うんっ」
前に行く小次郎に何かあったら面倒なので列から少し顔だけずらして見張っている源気に前にいたおばさんが決め付けのようにジト目で文句をつけてきた。
「あんた子ども使って前に行こうとしてんでしょ」
ボサボサの髪と目つきの悪さのせいか良く絡まれるので源気は売り言葉に買い言葉になってしまう。
「行かねえよ何だババア! あれ?」
おばさんや若い娘、高齢夫妻などが並んでいる店の入口を通り過ぎた小次郎に源気は大声で伝える。
「おいコジー、行きすぎだぞー」
このお茶屋さんはいつも行っているおせんべいのお店のすぐそばなので小次郎がせんべいを買ってしまっている。どうもオマケをもらっている感じもした。
『買うなぁ!!』
しかし、いつもの行動をしてしまうのは無理からぬことかもしれない。