小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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          『隣人さん』

 俺のクラスに転校生がやって来た。近井凛(ちかい りん)と彼女が黒板に書いているうちに俺はもう名前を覚えていた。
「初めまして、近井凛です」
 何だろう、彼女から目を離せない理由は……わからない。
「近井さんは最近まで十六年間イタリアに住んでいたそうですよ〜」
 あだ名が教育ママの担任の紹介の付け足しにクラス内がざわついている。「おぉ〜、美人だ〜」とか「情熱的〜〜」という級友達とどこか違う印象を感じていた俺はポカーンとした心境になる。彼女を一目見た瞬間から考えがまとまっていくにつれ、近井さんから目が離せていないんだと気づいた俺はこれが一目惚れというやつかと理解した。

「席は……田山労太君のお隣が空いているわね」
「え……」
 たしかに俺の隣の席はたまたま空席だった。こんな嬉しい誤算があっていいのかと俺は期待に胸躍らせる。しかし……俺の不幸はここから始まった……。


 授業と授業の間の休み時間になった。頑張れ、俺!まずはお友達からだ!と自分を奮い立たせる。
「あの! 俺、田山労太!! わからないことがあったら何でも聞いてくれ」
 俺は近井さんの顔をのぞき込む感じで彼女を見つめた。少し馴れ馴れしい印象を与えちゃったかな?
「…………」
 見つめ返してくれた近井さんの目に少し涙が光っていたので俺は動揺した。
「ど……どうしたの?」
 こういう時はどうしたらいいんだろうと俺は動揺を抑えられない。
「じい!! どこへ行っていたの!?」
 近井さんが俺に抱きついてきた。 急なことに俺の心臓の鼓動が激しくなる。
「ギャ――――!! たんま! 早すぎ! まずはお友達からで手をつなぐのが先でえーとえーと、じいって誰!?」
 俺は近井さんが積極的すぎて(実際は何か理由がありそうだけど)あたふたしてしまった。

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