小説『赤い渚に浮かぶ月』
作者:UMA.m(UMA.mのブログ)

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 第19話 ごく他愛のないおとぎ話 



「どう? 落ち着いた?」
 イリィの嗚咽がおさまってきたところを見計らって、アシェルはそっと声をかける。
「あ、はい・・・・・・」
 アシェルの声がきっかけとなったようで、イリィはおずおずと、顔を覆っていた手を下ろした。
 そんなイリィの顔を見るなり、アシェルは小さく苦笑すると、一体いつの間に用意したのか、湿らせた布切れで頬の涙の跡を拭いにかかる。
「あの、アシェル、私自分で・・・・・・」
「いいのいいの、まっかせっなさいっ!」
 ほんの短いつきあいではあるが、世話焼きアシェルに逆らっても無駄なことは、既に十分思い知らされている。イリィは、アシェルが自分の仕事に満足するまで、大人しくしていることにする。
「うん、これで良し! どう、さっぱりした?」
「あ、ありがと、アシェル」
「どういたしまして!」
「・・・・・・」
「・・・・・・ええと、まだ何か心配事?」
 何だかソワソワしているイリィに、アシェルはひょいと首を傾げる。
「ええと・・・その・・・今誰かに見られたら、やっぱり判っちゃいますよね、泣いた後だって、思いっきり・・・・・・」
「それは、まあ・・・・・・目が赤いなあとか、瞼が腫れてるなあ程度には」
「ああ、やっぱり・・・・・・どうしよう。お母さんに心配かけちゃう・・・・・・」
「いいんじゃない? 思いっきり甘えて帰れば?」
「でも・・・・・・私・・・・・・」
「心配、かけたくない?」
「・・・・・・私のお母さん、とっても心配性で・・・・・・こんな顔で帰ったら、ビックリしてどうにかなっちゃうかも・・・・・・」
 そんな大げさなと笑われる覚悟で、小さな声でイリィが言う。
「そっかー。それは困ったなー」
 だが、アシェルは真面目な顔で頷いた。
「ああっ! でももうお昼過ぎっ! 私、今朝出て来たまま、家の用事全部放ったらかしっ! これ以上遅くなっても心配されちゃうし、どっ、どうしたらっ・・・・・・!」
「お、落ち着こうよ、ねっ!」
 一人でパニックしかけるイリィを、アシェルはどうどうと宥めにかかる。
「ええと、ほら、でもちょっと羨ましいかな。そんなにも心配してくれるお母さんがいて」
「・・・・・・あ! ごめんなさい、もしかしてアシェルには・・・・・・」
 自分の都合に気を取られ過ぎたと、イリィは申し訳無さそうな顔になる。
「あ、気にしないで! ボクにもいたからさ、心配してくれるお母さんが。ずうっと前に別れたっきりだけどね」
「そう、なの・・・・・・」
「うん。そう!」
 さっぱりした笑顔で、アシェルは言う。
「あの、聞いてもいい?」
 少し躊躇ってから、イリィはおずおずと、遠慮がちな声をかける。
「何?」
「アシェルのお母さんってどんなカンジだったのかな、って」
「んー。わりとフツーかなー」
 思案するように人差し指を頬に当てたアシェルだが、結局、素っ気ない答えを返す。
「普通の、妖精さん?」
 イリィには妖精の親子関係はよく判らない。お話にだって、親子の妖精というのは、あまり登場しないのではないだろうか。
「あ、そっかー。そこからかー」
 何が面白かったのか、ひとしきり声を上げて笑った後で、アシェルは悪戯っぽい緑の瞳をイリィに向けた。
「ね、教えてあげよっか、ボクのヒ・ミ・ツ!」
「え? えっと」
 どう反応していいのか、判断に迷ったイリィだったが。
「やっぱどーしよーかなー。やめよっかなー」
 などと言いつつ、アシェルがどんな反応を期待しているのかは、その態度から一目瞭然だった。
「聞きたい! 聞きたいです。すっごく!」
「そうー? ホントにー?」
「ホントに! とっても!」
 両手を胸の前で組んでお願いポーズのイリィに、満足そうにアシェルは頷く。
「うん、では教えてしんぜよー。ってか、ホントにここだけの話だけど」
 後半声をひそめたアシェルに、イリィは思わず身を乗り出す。
「人間だったの」
「・・・・・・はい?」
 その瞬間、イリィの目が点になった。
「だから、こんな風になる前はさ、ボクは人間だったんだ」
 何でもないことのようにあっけらかんと言ってのけるアシェルだが、その告白はあっさり受け流していいような軽いものではないはずだ。
「そんな・・・・・・でも、どうして? 悪い魔法使いに捕まっちゃったの?」
「わあ、よく解ったねー!」
 その答えが嘘か本当か、芝居かかった仕草で驚いてみせるアシェルからは伺えない。
「・・・・・・お話では、そうかなって」
「なるほどねー。物語の定番かー。そっかー。別に特別なことじゃないのかー」
 くすり、と小さくアシェルは笑う。それは少し、フクザツな笑みに見えた。
「ねえイリィ、そろそろ歩き出さない? ゆっくりでいいからさ。そしたら、おとぎ話をしてあげる」
「おとぎ話?」
「そう。女の子の出てくる、あんまし大したことのない、わりとよくあるような、ほんのささいな話をね・・・・・・」



 むかし、ある町に。ひとりの女の子が、お母さんと一緒にくらしていました。
 女の子のお母さんは、とてもきれいで、やさしくて、そして夢のようにキラキラしたドレスをつくるのがとっても上手なお針子さんでした。
 お母さんがお仕事で作るドレスは、どこかのお金持ちのお姫様のためのもので、その女の子はドレスを着られるほど裕福な暮らしではありませんでしたが、大好きなお母さんと一緒にいるだけで、毎日がとても幸せでした。そしていつか大きくなったら、自分もお母さんのようなステキなお針子になるのだと信じていました。

 ところがある日、立派な身なりをした人たちが女の子の家を訪ねて来ました。彼らはあるお屋敷にすむお貴族様の家来で、女の子を探しに来たと言いました。
 何でも、亡くなられた先代の当主様には子供がなく、当主様の姉と弟が跡継ぎの座をかけて大喧嘩、周りの者はとても迷惑をしていたのです。そんな時、実は当主様には内緒の娘がいたことがわかったのです。その国の法律では、当主様の跡継ぎになるのは、その娘です。
それが、あの女の子だったのです。

 女の子は、お母さんと別れるのがいやで泣きました。
 でも、お母さんは女の子に言いました。
『泣かないで、いい子にしておいで。そうしたらお屋敷のみんなが、お前にやさしくしてくれるからね』
『いい子にしていたら、迎えに来てくれる? お母さん』
 お母さんは女の子の涙を拭いて、そっと微笑みかけました。
『幸せにね。私の可愛い子』
 そうして、女の子はお屋敷に連れて行かれたのでした。

 お屋敷の人は、女の子を大事にしましたが、それは、女の子が好きだったからではありません。
 女の子を見つけ出してその後見人になったことで、領主様の姉はお屋敷の主人になりました。
 負けた弟は、当然面白くありません。何とか女の子をさらおうとしたり、それがダメなら殺してしまおうとしたり、そうれはもう、色んな画策したのです。
 だから女の子は大事に大事にお屋敷の中に閉じ込められたままでした。外に出ることも、お客様の前に出ることも、ドレスを着て舞踏会に出ることもなく、ペットの小鳥と猫とお話の本だけを友達にして。
 女の子は、ずっとずっと待ち続けていました。いつか、お母さんが迎えに来てくれることを信じて。

 やがて、女の子が少女に成長した頃。
 ついに迎えはやって来ました。
 でもそれは、大好きなお母さんではなく、天使のお城の使いの者でした。
 使いの者は、後見人のおばさんに言いました。
『この少女には特別な力があるのです。天使のお城に連れて行かなくてはなりません。少女を渡してくれるなら、その功により、あなたが正当な当主になることを認めてあげましょう』
 もちろん、おばさんが反対するはずありません。
 そして少女は、今度は天使のお城に連れて行かれたのでした。

 それでも少女は、少し、わくわくしていました。
 だって、長いこと閉じ込められていたお屋敷から、やっと出ることが出来たのです。
 それに、天使様がいらっしゃるお城なら、そこはきっとステキなところに違いないと思ったからです。
 でもそこは、少女が想像したのとは、全く違う場所、違う世界だったのです。



「・・・・・・特別な力・・・・・・あの、フェグダって人みたいな・・・・・・?」
 アシェルの話を聞いていたイリィは、特別な力と聞いた途端に顔色を変えていた。
「うん。あれもそう」
 羽根の力による防壁と、挑発目的の探索の波動。それは敵対とまではいかないが、決して友好的でも優しくもないものだ。
「・・・・・・あの時、私、たくさんの光が弾けるのが視えた。・・・・・・でも、あれは、普通は視えないもの、ですよね。視えていいものじゃないのに、私にはそれが視えて・・・・・・そのことだけで頭がいっぱいになって・・・・・・。私には特別な力があるんだって、カリムに言われた時はまさかって思ったのに、それは本当だったんだって・・・・・・だから・・・・・・怖かった・・・・・・」
 イリィは両手で、ぎゅっと自分の肩を抱く。
「カリムは私の歌に力があると言ってた・・・・・・もし、私が歌うのをやめたら・・・・・・あれは、視えなくなる・・・・・・?」
 怯えた紫の瞳が、縋るようにアシェルを見ている。
「力が怖い?」
 問われたイリィは、黙って頷く。
「ねえ、イリィ。何が特別かってのは、人それぞれだけどね。それは貴族のお姫様だったり、お金持ちだったり、頭の良さだったり、腕力だったり、美しさだったり、お料理上手だったり・・・・・・数え切れないくらい、色んな種類の力があるよね。ただ、ボクらの持ってる力は、人間の決まりごとの範囲をちょっとだけ越えていて、自分自身にも周りにも影響が大きくて、自分がちゃんとしてないと簡単に翻弄されちゃう・・・・・・」
「・・・・・・あの女の子も、怖かった?」
「・・・・・・そうだね。最初はよく解ってなかったかな。天使のお城は、それこそ特別な力を使う人ばっかりだったし、怖がってる暇なんてなかったかも。・・・・・・怖いって言うなら、領主様の子供ですって言われた時の方がずっと怖かったかもね」
 それに。その力は彼女にとっては、大して特別ではなかった。屋敷の外にこそ連れ出してくれたものの、そこも結局は人間の作った決まりごとでがんじがらめで、その枠から逃れるには、彼女はあまりに無力過ぎたから。
 だが、不安でいっぱいのイリィに向かって、それをそのまま伝える気にはなれなかった。
「ああ、でも悪い事ばっかりでもなかったかな。少女はお城で、特別な人に出会えたわけだし」
「特別な人? 王子様? 天使様?」
 パッと、イリィは顔を上げる。
 イリィにとっては、知らない人との出会いそのものが、特別なことなのかも知れない。
「・・・・・・えーと、天使には違いないんだけど、あんまり王子とかそーゆーガラじゃなかったかなー」
 天使と呼ばれる身になれば、他の天使は特別でも何でもなかったりする。
 さらに夢を壊すようで申し訳ないが、アシェルの知る限り、王子様や騎士様に相当する連中に、ロクな奴はいなかったりもする。
「・・・・・・特別な人に会えて、女の子は幸せになった? 特別な力があって良かったって思った?」
「・・・・・・」
 その答えは、多分まだ出ていない。だけど、はぐらかしてしまいたくもない。
「・・・・・・ある日突然、彼は少女の前からいなくなって、少女は彼を探しに行くんだ。一生懸命探して、探して、探して・・・・・・。そうだね、誰だって、力は怖いよ。だってそれは、否応なく運命を変えるものなんだから。・・・・・・だけど、もし、もしも・・・・・・たった一度でいいから、特別で大切な人のために何かしてあげられるのなら、力があって良かったと思えるのかも知れないね・・・・・・」
「大切な人の・・・・・・」
「それは、イリィがこれから出会う誰かなのかも知れないし、今までずっと見守ってくれていた人なのかも知れない」
「私が一番大切なのは、お母さん! 今までずっと、見守ってくれて、私を大事にしてくれる人だから」
「うん」
「お母さんは・・・・・・私の本当のお母さんではないんです。本当のお母さんは、私が生まれたばかりの頃、私を置いてどこかへ行ってしまったって聞いてます・・・・・・」
「そう、なんだ」
 おそらくそれは、秘密でも何でもない。村でただ一人、少しだけ違った外見を持つイリィは、誰かに問い質す以前に、そうと言われ続けてきたのだろう。
「だから、お母さんが私のたった一人のお母さんなの。ちょっとでも帰りが遅かったり、転んで擦り傷作ってたり、落ち込んで泣いてたりしたら、すっごくすっごく心配してくれるんです」
「いいお母さんなんだ。・・・・・・お母さんのこと、好き?」
「はい! 大好きです!」
「そっか。それじゃ、心配なんかかけたくないよね。大丈夫。涙のあとも、もうわかんないよ。だから、早く行ってあげよう?」
「はい!」
 不安が完全に拭い去られたわけではないだろうが、それでもイリィはニコリと笑ってみせた。



(ごめんねイリィ・・・・・・ボクたちの存在は、間違いなくキミの運命を変えた・・・・・・)
 アシェルは心の中で、そっとつぶやく。
『もしもボクが、イリィを助けてあげてって言ったら、キミ、どうする?』
 ボクがカリムに言った言葉・・・・・・。

 本当は、誰でも良かったんだ。偶然出会ったのがイリィだったってだけで、イリィがどんな問題を抱えていようが、そんなことはボクにはどうでも良かったんだ。
 だけど、ボクがあんなこと言わなければ、カリムはイリィに関わらなかった。イリィのことが気になったとしても、自分のすべきことではないと切り捨てて、顧みたりはしなかった。今までずっと、自分の気持ちを切り捨ててきたのと同じように。
 ボクがあんなことを言わなければ、イリィだってボクたちに関わる理由も無くて、少なくとももうちょっとだけ、平穏な生活を続けられたはずなんだ。
 でも、それじゃカリムは・・・・・・。

 ボクじゃダメなんだ。
 ボクの前ではカリムは、自分の罪を忘れるなんて出来ないから。
 カリムがボクに望むのは断罪。そして終焉。
 でも、ボクは。ボクの望みは・・・・・・。
(だから、イリィ。ボクに出来る事は何でもしてあげる。巻き込んでしまった代わりには到底ならないだろうけど。それでも・・・・・・)



(お前、一体どういうつもりだ)
 見るもの全てを凍らせそうなほど冷ややかなカリムの視線を、そよ風のごとく受け流して。
(どうって、そのままの意味ですよ)
 どこまでも穏やかに微笑みながら、あの馬鹿の顔をしたそいつは応じる。
(だからですね、君の力を僕にくれれば、君の望みもアシェルさんの望みも、ついでに僕の希望も同時にまとめて叶えられて、万事上手くおさまるじゃないですか。我ながら、すっごく名案!)
(どこが名案だ馬鹿らしい)
(なんて言う前に、ちょっとは考えてみて下さいよ。炎の結晶と同化した命を持つ君は、身体が滅んでも魂は結晶の中で永遠に在り続ける。そんなのは、君の望む死ではない。なのに君は、肉体の維持に必要な薬酒を拒否している。いくら感情記憶を失くしたくないと言っても、それで動けなくなってしまっては本末転倒もいいところです。ねえ、どうして、そんな馬鹿なマネをするんです?)
 微動だにせず、カリムはその言葉を聞いた。
(決まってます。君の身体が死ぬ時には、迷わず結晶を破壊してほしいっていう、アシェルさんに対しての意思表示です。アシェルさんの手にかかって完全に消滅することこそが、君の望みなんだから)
 動く事が出来なかった。耳を塞ぐことが出来なかった。
(欠片ほどの結晶でようやく存在を保っているアシェルさんは、このままではいつ消滅してしまってもおかしくない状態です。だけど君を殺せば一人前の魔物として生きることが出来る。つまりアシェルさんには、君を殺す理由がある。それなのに、どうしてわざわざ意思表示をする必要があるんですか?)
 見開いた眼が、宙を見据えながら何も映していない瞳が、ギラギラと乾いた光を宿す。
(その必要があるとすれば、それは、君が不安に思っているからです。アシェルさんはもう、君を壊してくれないのではないか、とね)
 カリムの身体が微かに、本当に微かに震える。
(アシェルさんがどんな人なのかは、君が一番良く知っていますよね。そう、アシェルさんは君を犠牲にして生きようなんて、考える人じゃない。そもそもアシェルさんが魔物の力を手にしたのは、君の望みを知っていたからであって、そうでもしなければ君を殺すなんて出来なかったからです。だからこそ、君は恐れているのでしょう? 最期の最期で、アシェルさんは躊躇ってしまうのではないか・・・とね)
 ただの言葉だ。関係ない者が勝手にほざく、ただの思いつきから出た言葉だ。
 それなのに何故、こんなにも動揺してしまうのか。
 図星だからだ。
 守護者の指摘は正しいのだと、心が悟ってしまったから。
 アシェルのために、何でもやろうと考えた。それは決して嘘ではない。
 こんな命でも、アシェルの役に立つのなら、永らえてきた意味もある、と。
 だが、それすらも、自分の望みでしかないのなら。
 アシェルの望みではないのだとしたら。
 では、一体どうすればいいのか。
 自分に残されたものの中で、アシェルに必要とされるものはあるのだろうか。
(・・・・・・未だに俺は・・・・・・あいつより、自分の事ばかりを・・・・・・)
 自分とは、そういう者。
 誰かのためにと言い訳ばかり重ねながら、結局一番大切なのは自分だけ。
 どこまでも、それだけ。
(永遠とは、それほど怖いものですか? でもね、いくら永遠とは言っても、身体を失ってしまえば、そう長い間意識を保っていられるものじゃない。百年、二百年もすれば、何もかもどうでもよくなりますよ。それはそれで、君という存在が消滅するのと変わりない。たとえ、結晶が塔の手に渡って、何らかの術の媒体に利用されるのだとしてもね。ああ、でも、再び肉体を与えられ蘇生されるって可能性もあるんでしたっけ? まあ、僕としては、どっちでも構いませんけどね)
 どれほど意識から締め出そうとしても、消えることのない事実。
 だがそれは、一番大切な者を前にしてなお、囚われ続けねばならないことなのか。
(だけど今の状況で結晶が残されたとして、それがすんなりと塔の手に渡るかは疑問ですが。最悪の場合、天軍と魔物とで争奪戦になった挙句、この地は破壊され尽くされます。僕には素のままの結晶を利用することは出来ません。何とかして取り込めたとしても、結晶を欲する連中は、僕の存在など物ともせずに、僕を破壊して結晶を奪っていくでしょう。ホント、迷惑極まりない話です)
 カリムが聞いているのかいないのか、そんなことは大した問題ではないかのように、守護者はなおも語り続ける。
(ねえ。僕だったら、君を殺してあげられますよ。君の力を譲渡してくれさえすれば、君との繋がりを辿ってアシェルさんの意識に道を通すことも出来ます。守護の僕と意思の疎通がはかれるとなれば、アシェルさんはこの村で大事にされて、幸せに暮らすことが出来るでしょう。君がいなくなってもね。何だったら、アシェルさんの前では君の姿でいてあげますよ。僕はきっと、アシェルさんが理想とする君になってあげることが出来ます)
 乾いた光を宿す瞳が、ゆるゆると守護者に向けられる。
(ね、悪い話ではないでしょう?)


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