小説『ようこそ、社会の底辺へ[完結]』
作者:回収屋()

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[作戦遂行してみよう【突入編】]

<愉快な拷問の歌>
 作詞:回収屋
 作曲:ポチ
1.知ってるコトを全て吐け♪ 一言一句漏らさずに♪ 言いたくないなら構わんよ♪
怖いオジサンやって来て♪ 大きなオモチャで遊んでくれる♪ 君の意識は愉快に溶けて♪ 生まれて初めて出す声に♪ 親兄弟は号泣さッ♪
I・can・fly〜〜★ I・can・fly〜〜★ ますます頬を赤らめて〜〜♪
I・can・fly〜〜★ I・can・fly〜〜★ 低温ローソクまとめ買い〜〜♪

2.我慢なんかしなくていいよ♪ 感じるままを受け止めちまえ♪ そこで発見、自分の限界♪ でも、でも、でも、世界は君に期待してるよッ♪ まだまだイケる、開発しまくれ♪ 放送コードをブッ飛ばせ♪ 性欲に負けた? いいや、理性に勝ったのさッ♪
DHC・for・め〜〜ん★ DHC・for・め〜〜ん★ 正体不明の汁垂らし〜〜♪
DHC・for・め〜〜ん★ DHC・for・め〜〜ん★ 三角木馬が今日も鳴く・うッ♪

「もう、らめええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜★」
 辺りに響く浜松の嬌声。
「よくもまあ、騙してくれたなあ。しかも、俺が謎の不審者集団に拉致られて冷や汗かきまくってた時に、オメー等はそろって楽しくイベントかあ? 恥を知れッ! 恥をッ!」
 弥富はそれはもう興奮気味で、三角木馬に跨った浜松のケツを乗馬用のムチでベシベシやっている。
「さ、さっちん……ちょっとええかなァ……?」
 あまりの覚醒っぷりに、出雲は声がかけにくい。
「ああんッ? 何だよ、ソノ格好は? 全身ピッチピチにしやがって! 魔女っ娘だあ? 外見的年齢を考えろよなッ、この青○りんがッ!」
 ペシペシペシッ!
「はひィィィィィ〜〜★」
 血走った目で罵倒され、肉づきの良いケツを折檻された。
「や、弥富さん……これ以上の描写はさすがに――」
 仲裁専門の郡山が割って入るが、今回ばかりは彼自身の姿にまず問題が。
「おいおい、勘違いしまくった乙男かあ? アイドル面は何やっても許されると思ってんのかあ? 鏡をしっかり見ろッ! スネ毛はしっかり剃れッ!」
 ペシペシペシッ!
「はうぅぅぅぅぅ〜〜★」
 同様にケツを折檻。あっという間に涙目だ。
「ふごふご。ふぉふぉふぉ。はふぉはふぉ」
 後ろ手に縛られて地面に転がるポチが、ボールギャグを装着させられて何か言ってる。
「不感症は黙ってろッ」
 幼児にも容赦がない。画的には完全に児ポ法に抵触している。
「御主人よ、儂……」
「却下だッ!!」
 土佐は一蹴された。目出し帽を装着した不審な高齢者に対し、特にコメントはしたくないらしい。
「ふううううう〜〜……」
 一通りツッコミを終えた弥富は大きく溜息をつき、ドカッと腰を下ろした。四つん這いになった浜松の背中に……。
「あふぅ〜〜★」
 口から漏れるピンクな声。既に魔女っ娘じゃなくてマゾっ娘だ。
「御主人よ、さっき言っとった『謎の不審者集団』とは何じゃ?」
「白昼堂々と一般人を取り囲み、トイレの個室に押し込んで、自分達の素性を仰々しく明かすような連中だ」
 その説明だとただの不良だ。
「まさか……電薬管理局の!?」
「いや、『偽P・D・S友の会』とか名乗っていた」
「…………何じゃソレ?」
「こっちが聞きてえよ……また、迷惑なのが関わってきやがった」
 『偽造P・D・S』――オリジナルP・D・Sが合法的にネット上を流れていた時分、オリジナルP・D・Sをチートコードで違法に改造したプログラム。擬人化レベルを必要以上に高めてあり、非常に臨場感のある仮想空間を展開できるが、中毒性の高さと禁断症状が社会問題となり、電薬管理局によって取り締まりを受ける。犬・猫・鳥・爬虫類・魚類など、それぞれに適した偽造P・D・Sがネットに氾濫していたが、現在では、ほんの一握りのハッカーや挑戦者という名のバカだけが、電薬管理局への抵抗という形で活動するのみ。『偽P・D・S友の会』とは、言ってみれば軽いサイバーテロリストの組織という事になる。しかも、連中は弥富が電薬管理局から不正インストールした、オリジナルP・D・Sの存在を知っていた。まさか……スパイウェアか何かでハッキングを受けていたのか?
「とにかくだ。当初の予定としては、享輪コーポレーションで手掛かりを探る段取りだったが……おいッ」
「は、はひッ★」
 肉ベンチ・浜松を軽く足で突っつくと、予想通りの声が返ってくる始末。
「オマエ、本当に『深見素赤』なのか?」
 弥富は一気に核心を突く質問をした。

「うっしゃああああああああああああああああああああああ――――――ッッッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――ッッッ!?」

 さっきまでのマゾっ娘ぶりが嘘のように吹き飛び、肉ベンチが勢い良く立ち上がる。もちろん、座っていた弥富の方は無様に地面を転がって、三角木馬の角に後頭部をゴリッとぶつけた。そう、ゴリッと。
「ここまで追求されたのなら仕方あるまいッ! ここにハッキリと断言しようッ! このあたし『浜松』こそが、『深見素赤』の進化した姿なのだよッ! ぬははははははッ!」
「おォォォいでえ〜〜(泣) おォォォいでえ〜〜(痛)」
 踏ん反り返って高笑いする浜松をよそに、残念ながら弥富は地味に痛くて聞いちゃあいねえ。
「いえ、単純に考えてソレはあり得ませんね」
 郡山が冷静沈着な視線で浜松を凝視するが、ミニスカからのぞくトランクスが間抜けでどうしようもない。
「あたしの言う事が信じられない?」
「はい、無理です」
 そりゃそうだ――そんなカンジで他の禁魚達もいっしょに頷く。
「そもそも、どうやって人類が魚類に? 質量保存の法則を完全に無視した特撮ヒーローじゃあるまいし。科学的に考えてオカシイでしょ?」
 もっともだ。他の禁魚達はまた頷く。
「おーけー、おーけー! ならば、アンタ等の疑問を解消すべく、当初の予定をすぐ実行に移そうかねえ」
 そう言って彼女は弥富に近づき、魔法のステッキをブン回す。もちろん、現実的な効果は何も無い。
「ああ、行けばいいんだろ……」

 ―――――――― 20分後 ――――――――
「いやあ、マジで来ちまったなぁ……」
 弥富がそびえ立つ高層ビルを仰ぎ見る。アキバの街では一番の規模を誇る、大手ソフトメーカー『享輪コーポレーション』の本社ビルだ。正直なところ、就職活動すらしたことのない彼にとって、こんなプロの社会人が行き来する建物に入るのは、初めて野グソをするくらいの勇気がいる。しかも、現在の彼の状態は→タップリの水と魚類が入ったビニール袋を左手に、右手にはラップトップ。第一の難関は、正面玄関に立つ警備の人だ。
(見てるよ、見てるよ……見まくってるよ!!)
 弥富の心がポキッといくのは時間の問題。そして、彼にだけ聞こえてくる幻聴タイム。

警備員A(うわぁ〜〜、なんか面倒臭そうなのがいるなぁ)
警備員B(この街って頭のオカシイ連中多いからなァ)
警備員A(見ろよ、妙なモン持ってるぜ。顔色も悪いしよ)
警備員B(頼むから来ないでくれよ……あんなの止めるのヤだぜ)
警備員A(ああ〜〜……腹減ったなあ。メイド喫茶でハンバーグ食いてぇ)
警備員B(くっそ〜〜、今日ってAKB48のイベントがあるのによォ)
警備員A(げッ、アイツこっち見てるよ。ヤベぇなあ……)
警備員B(おいおい……近寄ってくるよ。何する気だァ?)
警備員A(テロだよ、きっとそうだよ……袋の中身は可燃物に違いないよ!)
警備員B(マジかよ〜〜、捕まえた方がいいか? でもさあ、オレって面接で柔道やってたとか嘘ついちゃったんだよなあ……無理だよう)

 ――みたいな会話。しかし、ここで立ち止まるワケにはいかない。後がないのだ。事件解明のためには、勇気ある一歩を踏み出さねばならない。
 ――――ザッ!
 弥富は毅然とした表情で大きな自動ドアの前に立つ。二人の警備員は特に声をかけてくる様子もなく、彼はすんなりと中に入れた。よし、幸先がいいぞッ。このまま首尾良く――

「みなさ〜〜ん、どうかお静かにッ! 我々は『偽P・D・S友の会』と申しますッ! 決して怪しい者達ではありませんッ!」

 ――――父よ母よ、実家で飼ってるオウムよ……トラブル発生です。広々とした玄関ホールを例の不審者集団が占拠してました。追伸――あまり電話できなくてゴメンナサイ。東京の夏はなんかもう、これからが本番ってカンジです。
「ガンバレヨ、ロクデナシ」
 オウムの声が最後に聞こえた。そんな気がした……。


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