小説『ようこそ、社会の底辺へ[完結]』
作者:回収屋()

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[アイツ等は今……こうなってるよう【実動課側】]

「コイツは驚いたな……!」
 電薬管理局・実動課・検査棟――
 弥富から没収したポータブルHDを安全なサーバーにつなぎ、宇野課長が感嘆の声を漏らした。彼の目の前に、居るハズのない人間が四人立っているから。
「やあ、はじめまして。ボクは郡山といいます☆」
 笑顔が爽やかなフォーマルスーツの好青年。
「出雲やでえ〜〜、よろしゅう〜〜♪」
 全身ムッチムチでプルプルなビキニ水着の女。
「土佐じゃ。段ボールを返してくれんかのう」
 継ぎ接ぎだらけの作務衣を着たヒゲのジジイ。
「やっべえええええええええッッッ!! 確保されちまったあああああああッッッ!! 畜生ッ、更紗のヤツ……次に会ったら、生殖機能が崩壊するくらいのイジメを施してやるわああああああッッッ!!」
意図は分からんが、何故かセーラー服姿の少女が約一名……久し振りの出番で精神状態が崩壊しかけてる。
(信じられん……ハナシには聞いていたが、これ程までリアルなアバターを仮想空間に造り出せるのか。なるほど、禁魚が禁制ペットに指定されるワケだな)
 宇野課長が一人で納得する。
「ところで、君達……『深見素赤』というハッカーについて何か心当たりはないかね?」
 ギクッ……!
 もんどりうってた浜松の動きがピタリと止まり、ビックリするくらいの汗が噴き出す。で、他の禁魚達に視線を送った。

 ―――――― さあ、皆の衆! この窮地を脱出するため、一致団結! 協力しようじゃないか! ――――――

 その視線に対する返信……

 ―――――― 犯人はこの中にいます。ヒントは“セーラー服がとっても似合わないビッチ” ――――――

「ちょッ、おま……うっそおおお〜〜! マジでえええ〜〜! このタイミングで裏切っちゃうワケぇ!? 信じらんな〜〜い、この偽善者共めッ! 24時間テ○ビの舞台裏に行って、準備しといた大量の小銭をアクリルケースに詰めてろッ!!」
 浜松はどうしようもないくらいの自己中心キャラが露呈しちゃって、完全にビッチの称号を獲得しちゃって……仲間のハズだった他の禁魚達の態度は氷点下。
「な、なんかよく分らんが……まずは各自知っている情報を全て話してくれ」
「ちょっと質問があるンやけど」
 出雲が控えめに挙手する。
「何だね?」
「うち等って、この後どうなるン?」
「知っての通り、禁魚は禁制品だ。一般社会に出回った時点で迅速に処理しなければならない」
「ええッ! つまり、ボク達は焼却処分されちゃうんですか!?」
 素で怯える郡山。
「つまり、汚物は消毒だあァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 火炎放射器で遊ぶ浜松。
「落ち着きたまえ。別に殺して捨てるワケじゃない。君達は今後の任務に役立ちそうだしな」
「あっぢいいいいいいい――――ッ! スカートに燃え移ったってッ、やべえってッ!」
 勝手に一人で火だるま。炎が浜松を汚物と認識したようだ。
「儂等の態度次第で今後の身の振り方が変わってくる……そういう事じゃな?」
 土佐が立派な白ヒゲを弄りながら呟く。
「理解してもらえたのなら話が早い。現在、我々実動課はかねてより手配中のハッカーに関する情報を探しているんだが、一向に進展が無くてね。ネットの海を自由に行き来できる『デジタル生物』とでも言うべき君達なら、色々と使い道がありそうだしな」
「つまり、晴れて自由の身になるンやったら、誠意を見せろっちゅうワケやな」
 出雲が仁王立ちしてポーズをきめてる。背中の贅肉がとってもプルプルだけど。
「よかろう! ならば、この浜松講師も協力するにやぶさかではない! 諸君、まずは一般的なレクチャーから始めるよ!」
 そう言って出現したのは、赤縁メガネをクイッとしながら指示棒を振り回す女教師。大きなホワイトボードは常に抱き合わせ。
(なるほど……仮想空間においては、ネット上の情報全てが連中の好き放題。何でも有りというワケか)
 宇野課長はさすがに弥富とは違い、状況を冷静に分析し、迅速に感覚を適応させていた。
「先生、質問や」
「出雲ちゃん、教室ではまず学生服に着替えましょう。他の皆さんもです」
 言われてモゾモゾと着替えだす。郡山の男子高生と出雲の女子高生は一応様になってるが、土佐の学生服姿はただの痴呆老人にしか見えん。そして……
「いや、あの……私もか……?」
 いつの間にやら宇野課長も悪フザケに巻き込まれ、学生服姿。事情を知らない人から見れば、成り立ての変態。
「では、改めて。出雲ちゃん、何が知りたいのかな?」
「結局、『偽P・D・S』使うとどんなよくないコトが起こるン?」
「ふむ、実に良い質問。では、このホワイトボードに概要を分かりやすくまとめて書くよ。しっかりノートに書き写しなさい!」
で、下記のようになります……

    【美人教師・浜松の傾向と対策ワンポイントアドバイス☆】
 ●初期症状――鬱病の兆しが表れる。軽い幻聴。軽い幻覚。外出が億劫になる。
                 ・
 ●中期症状――躁鬱病にかかる。重度の幻聴。重度の幻覚。外出が恐くなる。
                 ・
 ●末期症状――完全に引きこもる。“ガイアがオレにもっと輝けと囁くんだ”……とか言い出す。ラブ○ラスは現実だと感じるようになる。クリスマスや大晦日を毎年一人で過ごすようになる(作者を含む)。

「以上の症例が確認されておりま〜〜す。そこで、偽P・D・Sの被害に遭った場合は、以下の処置をとりなさい!」
ケース1=パソコンにバケツで水をかける→感電する→火がつく→全焼。
「先生ぇ、全てが灰になっちゃってます」
 郡山君がとりあえずツッコんだ。
 ケース2=119番に電話する→救急車で病院に向かう→途中で事故る→逝く。
「先生……結局、死んどるぞ」
 土佐君がガッカリしてる。
 ケース3=電薬管理局へ通報する→エージェントが踏み込んでくる→罪状を述べられる→失禁する
「コレは更紗に該当するケース。理由としては、失禁してるとこ見てみたいからで〜〜す」
 浜松講師の趣味・嗜好はどうでもいいです。
「浜やん先生ぇ。根本的な質問なンやけど、P・D・Sって何のために開発されたン? ソフトが一般で発売されとった時分はエライ儲けたらしいけど、売り上げの殆どは契約しとったソフトメーカーに入って、電薬管理局には特に還元されンかったらしいし」
「とってもイイ質問です。御褒美として、2時間後に賞味期限が切れるコンビニ弁当を差し上げま〜〜す!」
「いらんで」
 却下されちゃったんで、教卓から出しかけた冷たい弁当はお蔵入り。
「では……その点については、現場責任者に尋ねてみるのが一番かな〜〜★」
 浜松講師が何故か不吉な笑みをこぼしながら、宇野課長を睥睨する。
「特務事項に該当する内容だ。話せるワケがないだろう」
 課長は目を背けると、触れてほしくない事情の存在を明らかにしちゃった。
「では、勤め先の規約により話せない課長さんに代わって、あたしが分かりやくす説明するよ。ここはテストに出しちゃうから注意するように!」
「はぁ〜〜〜〜い」
 皆さん、良い返事。
「以前、郡山君が更紗に説明していた内容を思い出しなさい。つまり、“電薬管理局は動物の脳髄を搭載した生体PCを開発した”……という件。管理局は数社のソフトメーカーと契約を交わし、生体PCを管理・制御するための防火壁を開発。で、その過程で偶然生まれた副産物……それこそが『P・D・S』なのねん」
 浜松講師は得意そうに講釈しながら、宇野課長の方に一瞥をくれた。彼はチラチラと彼女を盗み見るようにして、分かりやすく動揺している。
「当時、彼等は年々深刻化する世界規模のネット犯罪やサイバーテロに対し、迅速且つ確実に対応しなければいけなかった。で、その問題を超合理的に解決する手段として利用されたのが……」
 ――――パンパンッ!
 浜松講師がホワイトボードの『オリジナルP・D・S』の文字を叩く。
「分かった、分かった! いいだろう……私は今から“独り言”を口にする。聞きたければ勝手にしろ」
 ネット上を漂流するあらゆる情報へアクセスできる禁魚達に、ヘタな隠蔽は無意味と悟ったのか、課長は学習机に両肘をついて手の平を組んだ。
「我々には決して侵されない不動の監視プログラムが必要だった。しかし、公的に法案として成立を待っていたら、プライバシーの大いなる侵害だとマスコミから叩かれるのは必定。ハッカー達にも感知されて、対策を練られてからでは遅い……そこで、一般大衆に迎合する要素を含んだ汎用性の高いソフトを開発した」
「なるほど。それがP・D・S……確かに効果は抜群だったようですね」
 郡山が軽く頷く。
「予想以上にP・D・Sは定着した。一般家庭に民間企業のサーバー、世界中のネット環境へ瞬く間に浸透していった。が、何事にも100%というものはない……P・D・Sに高い中毒性があると判明し、次第に社会問題化しはじめた。しかも、並行して偽P・D・Sが横行し、我々は対応に追われるようになった。偽物は更に依存性が高く、多くの中毒患者や廃人を出す結果となった。マスコミからは“全て大元のオリジナルが元凶だ”と非難され、実動課は馬車馬の如く働いている」
「コピーがコピーを生むからのう……一度ネットの海に流れ出した情報は、どれだけサイト管理者を逮捕しても回収しきれんからのう」
 土佐君が学ランのボタンを弄りながら寂しそうに呟く。
「独り言をありがとう、宇野君。では、ここからがこの講習の核となるワケだが……皆さん、享輪コーポレーションに深見素赤が勤務していたという事実は、まだ記憶に新しいですね?」
「新しいで〜〜〜〜す」
 またもや良い返事だ。
「おおっと、時間だ。本日の授業はここまでッ! ここから先は尺が長くなりそうだから次回ッ! 美人講師は読者のコトも気づかうんですよ〜〜!」
「浜やん先生ぇ……メタ発言過ぎやでぇ」
 起立、礼。授業終了。

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