小説『ようこそ、社会の底辺へ[完結]』
作者:回収屋()

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 [“戦隊”と“変態”は紙一重だよう]

(ここ…………ドコ?)
 俺、弥富更紗です。誘拐ってさあ……もっと金持ってそうな相手を選んでヤルものじゃねえの? 俺、近所のクソガキから小石投げつけられたこともある、見習いニートなんだけど。血も涙も流してみせますが、金は一切出せません。だから、ここから出してください。真っ暗で普通に怖いんです……。
 『ヤンデレコメット』と名乗るメイド姿の少女に拉致られ、到着した先の家屋に監禁されることとなった。袋を頭に被せられたままで相変わらず何も見えないし、手錠もされたままなので、彼は頭を思いっ切り振り回してなんとか袋を外したのだが……結局、弥富の視界は真っ暗なまま。少々カビ臭さが鼻につき、やたらと湿度の高い空間に閉じ込められたようだ。
 ポフポフッ……ポフポフッ……
 慎重に身体を動かしてみると、回りになんだか柔らかい物体が敷き詰められていて、ゆっくりと立ち上がろうとしたら、すぐに脳天を天井みたいな所にぶつけた。
「狭ッ! そして、熱ッ!」
 真夏だからという理由だけではない。この空間は明らかに風通しが悪く、湿気がこもりやすい造りになっていて──
 ――ガラッ!
「はいは〜〜い♪ 今出してあげますからねぇ〜〜、大人しくし・て・て・ね★」
 空間が開けて真っ暗闇に光が差し込み、手錠のカギを手にした偽メイドが目の前に現れた。
(ここって……押し入れ?)
 やっと理解できた。自分はダレかの部屋の押し入れに押し込まれ、リアルに監禁されている現状を。
「ごめんねぇ〜〜、ちょっぴり手荒くしちゃって。アタシもクライアントからせっつかれててさあ、仕方ないんで強引にイッちゃったあ。アハハハハッ♪」
 偽メイドは愉快そうに笑いながら弥富の手錠を外してやった。
「あ、あのさあ…………ちょっと聴いていいかなあ?」
「な〜〜に、オ兄チャン? あッ、エッチな質問ならまだダメだぞッ♪ お互いをもっとよく知ってからじゃないとね〜〜☆」
「…………………………ここドコ?」
 弥富が問う。すっかり疲れ切った声で。
「おおッ、よっくぞ聴いてくれましたァ〜〜! では、御覧下さ〜〜い!」
 そう言って、彼女は弥富を押し入れから引っ張り出してやる。
「………………………………わ〜〜お(汗)」
 弥富の視界に入ってきたのは、5坪ちょいくらいのフローリングの部屋。床や壁のいたる所に、大きくてモフモフしてそうな『金魚』のヌイグルミが飾ってあり、壁紙はとっても目に優しくないドピンク色。一瞬、目が「うッ」てなりそうだ。南の窓の近くには二段ベッドがあって、すぐ隣にデスクトップが設置された机。良く分からんが、撮影機材のようなモノも見て取れる。
「ここって……君の家?」
「もっちろ〜〜ん☆」
「君って…………いくつ?」
「もうッ、男の人ってどーしてすぐ女の子に年齢を聞きたがるかなあッ!」
 軽く怒られた。
「え、あ……いや、まあ……言いたくないなら別に……」
「現役バリバリ女子高生ッ、超健康優良の17歳でぇ──────す!!」
 腰に片手をあてて、もう片方の手で天井をビシッと指差してポーズをきめる。
(………………………………うざッ!!)
 弥富、言葉が目に見えて飛び出さんばかりの不愉快さを心の中で叫んでみる。
「Mr.アルビノがオ兄チャンを回収に来るまで、ここが唯一の生活スペース。ま、ゆっくりしていってちょうだいねぇ〜〜♪」
「こ、これって完全に犯罪だろッ!? 『アルビノ』ってヤツが何なのか知らないけど、君もタダじゃ済まなくなるぞッ!」
「ウフフフ〜〜★ そこは心配御無用なんだよねぇ〜〜。Mr.アルビノがいつも警察機関に手を回してくれるから、アタシが前科持ちになるコトは無ァ〜〜し」
「“いつも”って……君はこんな事を何度もやらかしてんのかッ!?」
「うん、そうだよ。アタシってさあ、ネットのアンダーグラウンドじゃ結構名の知れたアイドルなんだよねぇ〜〜。法に触れるのが怖くて実行に移せない、そんな欲求不満な人達から仕事を請け負うワケ。暴行、誘拐、泥棒、器物破損にRPGのレベル上げ──しっかりと実績つんでるんだからねッ!」
 そう言って、前髪をファサッとかき上げながらこちらをビシッと指差してくる。いちいちポーズをとらんと会話ができんらしい。
「い、いくらなんでも……そんな……はははッ、冗談だろ?」
 ドコの世界にそんな汚れ仕事を請け負う女子高生が居る? 弥富は少々怯えながらも、枯渇寸前の勇気を振り絞って笑ってみせた。
 バキンッ──!!
「残念でした〜〜♪ 冗談じゃないんだよねぇ〜〜★」
 弥富のすぐ目の前で、さっき外した手錠の鎖部分を笑顔で引き千切ってみせた。
「…………で、ですよね〜〜↑」
 弥富の頬がヒクヒクしちゃってる。
「アタシはこの『腕力』で、受けた仕事はみ〜〜んな上手くさばいてきたんだからねッ! そこいらのDQN女子高生とは格が違うのだァ────!」
 コイツ、一応DQNとしての自覚があるらしい。
(ま、マズイ……コレってもしかして……人生終了のお知らせってヤツか?)
 弥富の【ドッキリ★ ドキドキッ☆ 監禁生活ぅ♪】──が始まってしまった。

「ただいま戻りましてよ、課長」
 現場検証でごったがえす実動課・検査棟に津軽の姿が。片手に水が少し入ったビニール袋を携えて。
「とんだ不始末だな……津軽」
 たった半日ですっかり痩せ衰えてしまった様子の宇野が、彼女を出迎える。
「この失態は『Mr.キャリコ』を捕縛して挽回してみせますわ」
 津軽の眼光が鋭い。
「そうか……オマエもヤツが関わっていると思うか」
 宇野が深く溜息をついた。
「ところで、課長……禁魚達の要望通り“コレ”を持って来ましたが、一体、何を?」
 片手に持つ水が満たされたビニール袋を、訝りながら凝視する。
「理由は聞いていない。ま、とにかく水槽に入れてやってくれ」
 そう言われて津軽は、三匹の禁魚が遊泳している水槽へと袋の中身を全部流しこんだ。そして、弥富のアパートから持ってきたインカム・βを装着する。
「おおォ〜〜、よくぞ生きていたな。このロクデナシ共めェ〜〜」
 いきなり現れたワンピースに麦わら帽子姿の幼児──ポチ。面前の禁魚三匹に対して、両手を腰にあてて踏ん反りかえったポーズでニヤニヤ。
「オマエこそ相変わらず美味そうやなあ。ほんなら、早速ッ」
「いただきます、ですね♪」
「ふむ、食おうかのう」
 モシャモシャ……ガツガツ……ジュルジュル〜〜!
 とっても描写しづらい御食事光景が展開されだして、このカニバリズムに津軽も思わず表情が曇っちまう。
「いいぞォ〜〜、どんどん食うがいいぞォ〜〜。生まれてきた事自体が黒歴史なポチの肉体を摂取し、オマエ達の臓腑も真っ黒になってしまえ〜〜。アハハハハッ」
 辞世の句で呪いをかけながら食われるポチ。食われた所からウネウネと再生している様は完全にホラー。
「…………で、この面子で何がしたいんだ?」
 宇野が水槽の前にパイプ椅子を持ってきて腰かけた。
「めたもるふぉーぜぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!!」
 急に水槽とその周辺が暗くなり、妙なテンションの声がした。
「…………おい」
 宇野、予感がする。これから先は圧倒的な時間の無駄が懸念されると。
 パッ────
 照明の無い箇所からいきなりのライトアップ。
「うちはギルティ・バイオレット! 荒んだ現代人のハートを癒すチームの救護役や! 衣装はジャ○コの三階で買ったンやでッ!」
 出雲、太ももむき出しのミニスカで登場。
「ボクはギルティ・チェリー! その筋のオ姉サン達から好評なチームの交渉役です! 正直……すっごく恥ずかしいですッ!」
 郡山、前回の弥富の忠告通りにしっかりスネ毛の処理を終えている。
「儂はギルティ・アイリス! え〜〜……その〜〜……アレじゃ、チームのマスコットじゃよ! 見るなッ、儂を見んでくれッ!」
 土佐、目出し帽を被っただけ。世間一般で言うところの不審者。
「ポチはギルティ・ブロッサム! 労働意欲の無い若者を無差別にSA☆TU☆GA☆Iしちゃう、チームのリーサルウエポンだぞ〜〜! せぇ〜〜のッ──」

 <ワン・ツー・スリー・フォー・ギルティ5(ファイブ)!!>

 ブシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────!
 どこからともなくレインボーな煙が勢い良く吹き出してきて、その中で禁魚三匹と糸ミミズが珍妙なステッキを手にポーズをきめた。当然、拍手は無い。
「………………………………で?」
 津軽が全く関心が無い様子で聞く。
「ネットの海を漂う怪しい情報をピックアップし、電子指紋から目標の人物の居場所を突き止めるンや!」
「そしてぇ〜〜、完膚なきまでに駆逐してくれるんだぞォ〜〜! ※ただし、イケメンは除く」
 要するに、遊び半分で拉致事件の真相を暴いてやる……そんな心構えだ。
「一応、確認しておく。実動課としてこれは水面下での作戦だ。秘密裏に頼む。“Mr.キャリコの拘束”・“浜松と弥富更紗の捜索”、及び“大規模なサイバーテロの予防対策”……この三つが急務だ。いいな?」
「任せときッ!」
 出雲がウインクして斜め45度のポーズ。
「では、課長。わたくしは道路交通システムへのアクセス許可を得るため、管理局の方へ──」
 と、踵を返そうとした津軽の肩に、ポンッと出雲の手が乗せられる。
「ちょいちょい、独断専行はアカンで、ギルティ・ローズ★」
 満面の笑顔という凶器でもって行われた勧誘。出雲の片手には衣装一式が。
「………………………………課長、助けてくださいまし(汗)」
 悲壮感にうちひしがれたような表情で、上司に救いを求める津軽。
「スマン。非常時だ…………逝ってくれ」
 上司、視線を合わせられず、あさっての方向を向きながらポツリと呟いた。


※本エピソードはクリスマスに作成・編集されています(リアルで)。
※24日と同様に、作者の周囲にはケーキもプレゼントもありません。一緒に過ごしてくれる人も、もちろんおりません(え〜〜っと、練炭ドコにしまったっけかな?)。
※サンタさん、その大きな袋からリア充を出してください。川に流して遊びます。
※あ、アレッ…………目から、トナカイのヨダレが…………。
 

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