小説『ようこそ、社会の底辺へ[完結]』
作者:回収屋()

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[ドキドキ♪ DT弥富の同棲生活(初日・夜だよう)]

 ひゃっはあァァァァァ〜〜!! 浜松、見☆参!! みんな大好き、黒出目金のメスなのよ。常に優雅且つ頼りなく泳ぐその姿は、全国の引きこもりとニート共を魅了して……ああッ、魅了して〜〜♪ しかし、その実態は──なんと、人間の女性だったりするのだあああああッッッ! 深見素赤(年齢詐称疑惑有り)があたしの本性。かつて、大手ソフトメーカー・『享輪コーポレーション』に勤め、『オリジナルP・D・S』を開発したんだけど、色々あって知り合った弥富(バカニート)がギャーになったり、陰で小悪党がフヒヒWWWってしてたり、ついさっきはあたしが拉致られた先のアパートの一室が半壊したりして、なんとか事無きを得てみたワケよ。それにしても弥富のヤツは一体、ドコへ…………ん? クンクン……こ、これは……“リア充臭”!? バカなッ、ヤツに限ってあり得ない! まさか、ヒロイン交代!? えッ、ちょ、待ってぇぇぇぇぇぇ────!


「おいおい、どうしたんだよ……?」
 俺、弥富更紗は現在、偽メイド──長洲しるくの家で軟禁状態にあって、彼女は少し前に俺のアパートからケータイと冊子を原付で取りに行ったのだが、手にはコンビニの弁当と惣菜が沢山詰め込んだ袋を持っていて、注文しておいたのはドコに? それに、妙に血相変えてて、何かに追われていたみたいに落ち着きが無い面持ちだ。
「ふぅ〜〜……マジでヤバかった。一体、何事よ……」
 しるくは玄関の壁にもたれかかり、軽く溜息をついてそう言った。
「で、何があったんだ?」
「アンタのアパートにケータイと冊子を取りに行ったら、近くの交差点で派手な衝突事故が起きて危うく巻き込まれそうになった……しかも、アパートの方を見たら、大勢の軍人がアパートの一室から駆け出してくるし。あれって、アンタの部屋の隣だったよ」
「軍人? それって……俺が誘拐されたのと関係があるのか……?」
「かもね。そういえば……軍人に混じって、この前アキバの街で一戦交えたオバサンもいたし」
「────ッ、津軽さんが!?」
「一応、見捨てられてはいなかったみたいね」
 そう言って、しるくは弥富に見えないように苦笑すると、キッチンの方に行って両手に持ってた大きな袋をテーブルに置いた。
「で、コイツは何だ?」
「何って……夕飯よ」
 彼女はさも当たり前のように言う。豚カツ弁当、上海焼きソバ、エビのグラタン、酢豚、筑前煮、コーンサラダ、ビーフカレー……まさに、ザ・コンビニメニューだ。
「ベタな食生活だなぁ」
「外食依存症のニートに言われたくないわね」
「ま、確かにな。じゃ、明日の朝は俺が簡単な朝食を用意してやるよ」
「えッ────できるの!?」
「うわァ〜〜、失敬な顔しやがんなあ。外食に頼る前はしっかり自炊してたの。節約のためにな」
「ふぅ〜〜ん……ま、期待はしないけどヨロシク。けどさあ、炊飯器とかって使い方分かるワケ?」
 しるくは真面目な顔して聞いてくる。
「…………おい。まさか、米の炊き方からして知らないってハナシか?」
「うん、知らな〜〜い♪」
 あさっての方向にめがけて笑顔。いいか、よく聞け女子高生。料理が一通りこなせるってアピールは男に媚びるためではなく、生活力を磨くために必要なのだよ。

 ──ってなワケで、二階から朱文を呼んで三人で夕食。
「いただきま〜〜ッす!」
 嬉しそうに手を合わせるしるく。彼女の前に並んだ食事の量は、明らかに一般の年頃女子高生が摂取する量を超越していた。
「なあ、君のオ姉チャン……ものすごいカロリーを前にして怯む様子もないんだが、アレって日常なのか?」
 買ってきた大量のコンビニ食料。その約7割がしるくの手によって開封されていく。
「うん、いつもです。オ姉チャンは“燃費の悪い体”だから仕方がないって言ってます」
 俺の隣に座ったしるくの弟──長洲朱文が小さな声でそう言った。
「う〜〜ん☆ やっぱセブ○イレブンの上海焼きソバは最高ぉ♪」
 この上なく幸せそうな食いっぷり。オマエはイトー○ーカドーの回し者か?
「タダ飯にありつける俺が言う事じゃないんだが……オマエ、食い過ぎじゃねえの?」
「いいのッ。アタシは部活でストレス発散して、エネルギーも存分に消費するから! それに、仕事で使う腕力(ぶき)の調子を常にベストに保つために、脳ミソがカロリーを欲してるのッ!」
 なるほど。この量が日常化すれば、確実に人体は肥満へ一直線。が、しるくの体型はバスルームで見た通りのスレンダー。多少、四肢にゴツイ筋肉がついているくらいで、デブる兆候は見て取れない。要するに、弟の言う通り“燃費の悪い体”なのだろう。
 ピッ──
 朱文が何気なくテレビのリモコンを手に取って電源を入れる。目は見えないが、一日中家の中で生活する身。大体の位置は把握している。

<速報です。昨今、社会現象にまで発展していた『偽P・D・S』の問題ですが、つい先程、電薬管理局の記者クラブから発表がありまして、偽P・D・Sの生みの親と目される容疑者が逮捕されたとの事です>

 ────────ッ!?
 忙しく箸を動かしていたしるくの手が止まり、弥富も思わずテレビのモニターを直視した。

<現場の映像は未だに入ってきてはおりません。未確認ではありますが、国家調査室と電薬管理局の実動課が合同で実施した作戦であるとの情報もあり、今後、ネット上におけるハッカーやサイバーテロリスト達の動向が警戒されます。繰り返します。本日──>

 ――ブゥゥゥゥゥン、――ブゥゥゥゥゥン
 テーブルの隅に置いてあったしるくのケータイが振動する。
「………………」
 しるくはすぐにケータイへ手を伸ばしたが、一瞬、弥富の方に目をやって何かをうかがうように沈黙していた。
「出ろよ」
 弥富は何か察した感じでそう言ってやる。
「う、うん…………ちょっと失礼」
 彼女は弱々しい声で呟き、ケータイを握りしめてリビングの隅っこに歩いて行った。
「あ、あの……ボク……」
 ニュースから流れた『偽P・D・S』という単語に反応する朱文。無理もない……自分の目が見えなくなった原因は、本人もよく知っているのだから。
「もしもし、一体、何よ? 夕飯時に……」
<テレビを見ろッ! 緊急事態だッ!>
 相手はMr.アルビノ。予感した通りの相手からだ。
「はいはい、ついさっき見たっての。で、本当なワケ?」
<安全な回線を使って接触を試みたが、Mr.キャリコと連絡がとれん。まさに驚天動地だ……>
「まさか、そっちも済し崩しに捕まっちゃうとかじゃないでしょうね?」
 しるくの声がわずかに震える。
<正直……分からん。Mr.キャリコが予測以上の腰ぬけで、余計な情報をベラベラと吐いてしまう可能性はある。これから私はMrs.タンチョウと連絡をとり、今後の身の振り方を算段せねばならん>
「…………で、アタシの方はどうすればいい?」
<今後の展開次第では、人質となった弥富更紗の存在が最も重要になってくる。絶対に監視を怠るな>
「ちょ、そんなヤバイ状況でアタシが預かってていいワケ? 別の人に代わってもらった方が……」
<いいや、こんな状況だからこそオマエが一番の適任だ>
「何でよ?」
<オマエはMr.キャリコとは一切面識が無い上に、接触した物理的な記録も無い。ヤツが拷問まがいの尋問を受けたところで、オマエに関する情報は流れない>
「あ……そっか」
<唯一の懸念材料は、アキバで交戦した実動課のエージェントがオマエの顔を知っていることだけ。だが、相手もダレが拉致したのか目途が立たなければ、捜索に時間がかかるハズだ>
「あッ…………え〜〜と……(苦笑)」
<おい、まさか!?>
「ゴメン。調子に乗って、アタシが拉致ったコトがモロバレな書置きしちゃった……テヘヘッ♪」
<このマヌケがああああああああああッッッ!! 日頃から言ってあるだろうッ、非合法な仕事に悪フザケを持ち込むなと!!>
 Mr.アルビノの怒号が飛ぶ。
「ダイジョ〜〜ブ、心配無いって。連れ去る時、交通局のカメラがカバーしてない道をちゃんと選んだし」
<本当か? これ以上の抜かりは無いと断言できるのか?>
「コスプレの神に誓ってッ☆」
 えらくコアな神だな。
<……いいだろう。とにかく、弥富更紗をしっかり見張れ!>
 プツッ────
 Mr.アルビノは押しつけるみたいに言い放って通話を切った。
(まいったなァ……ちょっぴり緊張してきた)
 まさかの事態だ。Mr.アルビノが多額の出資をしていたハッカーが逮捕されてしまった。偽P・D・Sの元締めが捕まったということは、『子』や『孫』の一斉検挙もありうる。そうなれば、過去に偽P・D・Sを使用した個人の経歴までも調査されかねない。つまり、朱文にも火の粉が降りかかる恐れがある。
「で、何の電話だったんだ?」
「ふぎゃあああああああああああああァァァァァァァァァァ────────ッッッ!?」
 急に背後から弥富が声をかけてきて、しるくがバンザイみたいなポーズでビックリ。ケータイが空を舞う。
「おい、驚き過ぎだぞ。まずは落ち着いて──」
「ええ、落ち着くわよ(怒)。こうやって脈拍を正常に戻すわよ(怒)」
 グイグイッ……グイグイッ……
 両手で絞め上げられる弥富の首根っこ。
「ちょッ……やめて。マジでキマってるから……き、気が遠くなって……見たこと無い天使が降臨してるから……(苦)」

天使:A「おいおい、殺害現場に降りちゃったよ」
天使:B「いいのか? まだ神様から魂を回収する許可は得てねえぞ」
天使:C「いいんじゃないっスか。ちょっとしたフライングっスよ」
天使:B「いやマズイって。少年と大型犬の時と同様に、綺麗にキッチリ死んでからが鉄則。この状況での俺達はただの不法侵入者だから」
天使:A「別にいいんじゃねえの。この世界ってさ、勝手に人の家に上がり込むヤツ多いらしいし。泥棒とかヨネスケとか」
天使:B「そんなのを天使と同列にすんなよ。とにかく、撤収するぞッ」
天使:C「うぃ〜〜っス。先輩、今回って時間外手当てつくんスかねえ?」
天使:A「そんなのは人事部の連中に聞けよ」

 天使共、天へと帰還。
(お、おい……助けてくんないワケ…………ガクッ)
 弥富、天井に手を伸ばしながら────おちた。
 

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