小説『ようこそ、社会の底辺へ[完結]』
作者:回収屋()

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[ドキドキ♪ DT弥富の同棲生活(初日・深夜だよう)]

 ああ、そうだよ。俺だよ。弥富更紗だよ。この物語の主人公だったりするワケなんだ。25才にして未だに“彼女”という存在に触れたこともない。それどころか、女友達の一人もできないものだから、次第に社会が俺をイジメてるなんて妄想にとりつかれかけて、今では怠惰な生活を絶好調に満喫するニート。一人暮らしを惰性で続ける俺は、チャットで知り合った女性から『オリジナルP・D・S』なんて危険物を託されちゃって。そしたら、芋づる式に関わりたくない連中や危険人物がオプションで付いてきて、終いにはDQNな女子高生に拉致されて監禁生活してる。俺……どの辺りで人生間違ったんだろう? 小学生の頃、<愛と勇気だけが友達さ>って悲しいタイトルの作文書いた時? 中学生の頃、成長著しい同級生の女の子の胸元を、眼球が発射されるんじゃねえのかって勢いでガン見してた時? 高校生の頃、実家にオウムがやってきて、まず一番に俺の指を敵意むき出しで食い千切ろうとした時? …………いずれにせよ、現在、国家レベルの問題に巻き込まれてるみたいで、俺、今回の件が収拾ついて無事だったら実家に帰ってバイトでもしようかな……。


「おいおい……まだ食うのかよ」
 食事が終わり、弥富としるくはしるくの自室(監禁部屋)へ。朱文は風呂に入っている。で、しるくは椅子に座って背もたれにゆったりとその身を預け、手に持った生クリームがタップリのプリンを食している最中。
「今からちょっと激しく体動かすから、糖分をしっかり摂取しとくの」
「え……?」
「うっわァ〜〜……反応がキモッ。飢えた野郎の頭ン中って思考が単純過ぎッ」
 単語の条件反射で微妙に頬を薄赤くする弥富に、しるくが“死ねよゴミ虫!”みたいな面で返す。
「アタシ、『ヤンデレコメット』の名前で動画投稿サイトに投稿してんの。主にはアニソン歌ったり、曲に合わせて踊ったりするワケだけど、サイトじゃ結構な有名人」
 そう言ってどや顔したしるくが、空になったプリンの容器をゴミ箱へポイッ。
「ああ、それで……簡単な撮影機材が辺りに転がってるワケか」
「アンタついてるよ〜〜♪ アップすれば確実にトップ10に入る動画の生撮影シーンを、こうして目の前で見られるんだからッ☆」
 そう言いながら彼女はクローゼットを開ける。中にはコスプレ衣装一式が収納されていて、メイド服にミニスカチャイナ、婦警に魔女っ娘、浴衣に水着……男共の淀んだ需要に対する立派な供給源がそこにあり。
「けしからんッ、ああ〜〜けしからんよッ! 基本的に若い男ってのはな、エッチな物を投げつけられると爆発するんだよ。主に股間がッ!」
 口うるさい父親みたいな態度だが、言ってる内容は欲求不満でゴメンナサイだ。
「はいはい、そんなコトは知ってますっての。生放送の時はリアルタイムでモニターに視聴者のコメントがのるから、連中がどんな目で観てるかはものすごくよく分かってる。ヒドイ奴なんか“まずは脱いでくれ(笑)”とか、“オッパイ♪ オッパイ♪”とか……ほ〜〜んと、呆れるくらいバカばっか」
 文句をたれてはいるが、彼女の口調は不満を口にしている感じではなく、ミニスカメイドに着替えながら高揚感に似たモノでテンションが上がりつつあった。
「あのさァ……俺の事キモイって言うんなら、どうしてまた目の前で着替えるワケ?」
「バカ者ッ! 相手の行動により“見られる”のと、アタシが相手に“見せてやる”のとではエロの質が違うのッ!」
 下着姿で毅然と仁王立ち。それを床に座って見上げてる俺って……わァ〜〜お、マヌケ。
「要するに、オマエはバカな男共(弥富を含む)に愉快なエサを与えて楽しむ――陰湿なドSの思考だな」
「お黙りッ! こっちは機材に経費かかってんのに、連中にタダでアタシの艶姿を見せてやってんの。こっちの性癖を満たしたってバチは当たんない。コスプレの神様がそう言ってる★」
 何でも神様につなげるんじゃねえよ。いちいち神様出てきたら、トイレの女神様と花子さんが殴り合いのケンカ始めちゃうよ。それはそれはキレイな〜〜♪ 女神様がいるんやで〜〜♪ って、じゃあさあ、男達は女神様の前でいっつも泌尿器を露出してたワケ?
 
 ――――――――ファサッ☆

 ミニスカを翻し、着替え終了のしるくがあさっての方向に営業スマイル。PCと撮影用機材を機動。そして、スピーカーから流れてくるとってもアップテンポなBGM。部屋の中の空気が別空間とつながったようなテンションに変わり、彼女の表情に一気にパワーがみなぎった。
(うっわあァァァ〜〜〜〜(汗))

アニメ・『きら○んレボリューション』のOP──『バラ○イカ』の替え歌で……

 【殺らないか?】
 作詞:回収屋
 作曲:ヤンデレコメット

1.<ゆらりゆらり揺れてい・る、乙女(JK)心ピ〜〜ンチ! かなり、かなり、ヤバイの・よ(経済的に)助けてダーリン! クラクラリン♪>
<な〜〜にもかもが新しい戦場(せかい)にきちゃったわ♪ たく〜〜さんの怒☆気 怒☆気 乗りこえ(ピョ〜〜ン)! 踏みこえ(グリグリッ)! 殺・る・ぞ♪>
<殺らないか 殺ららないか 殺ら ないら かいかい! こ〜〜の殺意(おもい)は止められない♪ もっと腐女子(おとめ)ちっく・腕力(パワー)♪ ぎらりんりん ちょっと危険な惨★事♪>
<殺らないか 殺ららないか 殺ら ないら かいかい! もう〜〜怒☆気 怒☆気 止められない♪ もっと怒羅魔チック・濃い♪ キャラクタ 二人だけで 殺・ら・な・い・か?>

2.<すごくすごく……大きいです★ 乙女(JK)心チャ〜〜ンス! 血肉・内臓とび出そう おねがいダーリン! ハラハラリン♪>
<あなただけを〜〜監視するワタシにしらんぷり? 気づいてほしいのよ トキメキ! ヤキモキ! ス・キ・よ!>
<殺らないか 殺ららないか 殺ら ないら かいかい! そ〜〜の性癖おしえてよ♪ もっとDQN(おとめ)ちっく・モード♪ ぎらりんりん やっぱ笑顔が不・気・味♪>
<殺らないか 殺ららないか 殺ら ないら かいかい! 盗撮(よそみ)してちゃダメダメよ♪ もっとドエロチック・濃い♪ 絡みだ 前科持ちなの 殺・ら・な・い・か?>
<痴女(オンナのコ)は〜〜いつだって夢見る乙☆女なの♪ インモラルな心で恋して! 愛して! S! O! S・O・m9(^Д^)プギャアアアアアアアアアアア──────!!>
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 ギャラリーとして言わせてもらうと…………オマエ、病んでるよ。撮影カメラに向かって夜中に一人で腰振ったりターンしたりする様は、シラフな精神状態では直視できねえよ。
「なッ……何よその人を心底から哀れむような目はッ!? 一人で踊って何が悪いのよッ!? 変じゃないからねッ、アタシはとっても正常な女子高生なんだからねッ!!」
 踊りながら歌いきったしるくは、少し息を荒くしながら弥富の方をビシッと指差して声を上げる。おい……まるで、俺がその“変”に含まれる対象みたいに言うなよ。
「いいか、よく聞け。<そうです、私が変なオジサンですッ!>って言うのと、<そうです、私が正常なオジサンですッ!>って言うのとでは、どっちがより変だ?」
「────────ッ、何て事なの! 後者の方が……より変に感じる!(汗)」
「その通りだ。それこそが真実だ」
 明らかにオカシイ諭し方だが、しるくは驚愕の面持ちで納得しちゃった。
「まあ、人の趣味にケチつけても仕方ねえし。もう遅いから俺、寝たいんだけど」
「ファ〜〜ック! 夏休みに入ってる女子高生のテンションを甘くみてもらっちゃ困るわね! 夜はまだまだ長い! さあッ、若者らしく夜遊びするのよ!」
「黙れよ。こっちは二十代の半ばにさしかかって、子供じみたテンションはとっくに萎えてんだよ。オマエ一人で健康的に竹下通りにでも行ってこいよ」
 弥富はいまだに拉致されたという緊張感が抜けておらず、ストレスと疲労の蓄積がハンパなかった。
「それはそうと……“お金”の件なんだけどさあ」
 急にしおらしい声になったしるくが、手を後ろで組みながらモジモジしだす。正直、さっきまでとの落差が大き過ぎて気持ち悪い。
「ケータイと例の冊子がねえと俺には──」
「それとは別のハナシなんだけど……アタシ、ちょっとした小遣い稼ぎも最近はじめててね」
 そう言って彼女はデスクの引き出しから一冊の本を取り出した。
「じゃ〜〜〜〜ん♪ 綺麗に撮れてるでしょ?」
「……………………(汗)」
 弥富、目を細めて沈黙。しるくが手にしているのは、本人のいわゆる──『コスプレ写真集』。ジャケットには、今着ているのとは別バージョンのメイド服姿でポーズをきめてるしるくが。弥富は恐る恐るソレを手に取り、中身をペラペラっとめくって見てみる。ほとんどがアニメ・ゲーム系のキャラコス。自作なのかオーダーメイドなのかは知らないが、相当な手間ヒマをかけた写真集なのは確かだ。
「オマエ…………これ売ってんの?」
「うん、ネット通販のみだけど。結構評判良いんだよ」
「…………で、もしや、コイツを量産して俺の知り合い(仮)全員に売ってこいってか?」
「違う、違う。数冊売れたくらいじゃ、コスプレ一着分の材料費にもならないから。やっぱさ、こういう写真集にはもっと“エロス”が必要だと思うのよ。どうせ買うのって野郎ばっかだし★」
「待て待て待てッ……オマエの想定する“エロス”がどういうモノなのかは知らんが、もっと沢山売るため肌をさらすってのは〜〜……イカン! お父さんは許しませんよッ!」
「童貞ニートのお父さんなんかもった覚えは無いわよ。それに、18禁指定されないギリギリの構成だから問題ないの。でも、それにはアンタの協力が必要なワケ♪」
 しるくが不吉な笑みをこぼす。
「やめてくれ。俺は一切関わりたくねえから。貝になって閉じ込ろう……そう、俺は貝になりたい」
「ねえ、“一宿一飯の礼”って知ってる?」
「……………………おふッ」
 弥富の中で大切な何かが失われようとしていた。またしても……。


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