小説『ようこそ、社会の底辺へ[完結]』
作者:回収屋()

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[ゲームは一日一時間にしよう]

「ええッ!? ボクは無理ですよ、このシリーズ……怖過ぎですよッ!!」
 怯える郡山。
「倒れたゾンビはナイフで斬るべしッ! 斬るべしッ!」
 コントローラーを汗で濡らす浜松。
「何で画面切り替えた途端にモンスターの死体が消えるン?」
 ポテチ食いながら観戦する出雲。
「スタッフが美味しくいただいとるんじゃよ」
 つまらなさそうに呟く土佐。
「うわあああああああッ!! イヌ、イヌ、イヌ!! 窓ガラス破って……やっぱりですよ〜〜! カメラアングルが怪しいんですもん!!」
「行け行けクリス! ゴリラパワーを解放しろ!」
「なあ、Tウィルスの『T』って何や?」
「“とんでもない”のT」
 明らかに違うだろ。どんだけカプ○ン適当なんだよ。
 ……ってカンジで四匹はゲームしてた。インカム・βを装着し、突如として背後に現れた深見・父のことなど全く気づく様子もなく。
「ちょっといいかな、君達?」
「ぎゃああああああッ! 出たッ、出たッ、大きいの出ましたッ!」
「ええいッ! 火炎弾でこんがり焼いてくれるッ!」
「なあ、Gウィルスの『G』って何や?」
「“ゴキブリ”のG」
 撃っちゃえよ、ウェスカー。
 ……ってカンジで深見・父は完全に無視られている。
「君達、エアレーション止めるよ」
「失礼しました、お客様」
「うおッ、ガスマスク持ってる。まさかのハンク登場ッ!?」
「あ、リセットボタン押してもうた」
「儂、もう眠いのう〜〜」
 四匹はそろって回れ、右。
「さて……君達の飼い主は今回の件にどれだけ関わっている?」
 深見・父は腕組みをし、鋭い視線を向けてくる。
「いきなり尋問か? 一体、ドコのダレや?」
「わたしはただの使いっパシリだ。オリジナルP・D・Sが通常回線で使われたため、奪取するよう依頼を受けた」
 妙な空気が流れ出した。
「浜松さん、どうやら電薬管理局にバレてるみたいですね」
「おのれッ! こうなれば、証拠隠滅のため核ミサイルを投下せよッ!」
「ラクーン・シティとちゃうで。ここ、日本」
 怖いね、ゲームの影響力って。
「弥富更紗は禁制動物所持の現行犯で逮捕される。が、君達の態度次第では、彼を見逃すという選択肢もある」
「つまり、ボク等や弥富さんがどのような情報を得たのか、全て話せと?」
「ああ、そうだ」
「ん〜〜……お断りですね」
 郡山が微妙に苦笑いして答える。他の三匹も、あからさまにイヤそうな顔してるし。
(…………?)
 この様子に深見・父は眉をひそめ、通信機を手に取った。
「禁魚かシステムにエラーがあるようだ。こちらの要求に正しく応えない」
<システムに問題はない。そもそも、禁魚にP・D・Sをつないで使用する事自体に、ほとんど前例が無いのだ。何が起きるかこちらも分らん>
「だとしても、これ程までに擬人化レベルが高いものなのか? とても魚類とは思えんくらい饒舌だ」
<とにかく、情報の回収を急げ。もし、無理なら破壊しても構わん>
「了解した」
 深見・父は呆れたように軽く溜息をつくと、禁魚達の方に向き直る。すると――
 ガシャ――
「――――ッ!?」
 彼は硬直した。乾いた金属音がして、太い銃口が自分に向けられていたから。

「かゆい・うま☆」

 浜松の口元が歪んだ瞬間――

 ドオオオオオオオォォォォォォォ――――――――――――ッッッン!!

 空気が重々しく震え、深見・父の意識が吹き飛んだ。
 ドサッ……
 まるで、自分の脚が消えて無くなったみたいに崩れ落ち、彼は動かなくなった。
「…………?」
 弥富の前で深見・父は水槽に顔を突っ込み、ブクブクしている。インカムを装着していない彼には何が起きたのか全く分からない。

 ―――――――――― 動かなくなった? ――――――――――

 人が死んだ……すぐ目の前で、人が死んだ。動画サイトでしか見たことのない現実が、衝撃と共に訪れてしまった。
(……こんなのねぇよ!)
 まさに悪夢だった。身動きがとれないまま死体を目の前にして、事の成り行きを見ていないといけない……どうする? どうすればいい? やがて、時間は経過し……

「いや〜〜、どうしましょうか、コレ?」
「見たかッ、あたしのコルトパイソンの威力ッ!」
「さっさと焼かんと、クリムゾンヘッドになるで」
「ZZZZZZ…………(眠)」
 インカムをつけた弥富の前で、まだゲームに影響されている禁魚達。
「やべぇよ、やべぇよ、やべぇよ、やべぇよ、やべぇよ……!」
 頭に両手をあてて、うつむき加減でブツブツ呟く。変な臭いがしてそうな汗がダラダラ流れ出る。弥富はマズイ世界の扉を開こうとしていた。
「死んでる。コレ、死んでる。あはははははははは」
 いつの間にか現れたポチが、無表情で死体をゲシゲシと蹴ってるし。
「なあ……オマエ等が殺したのか? つーか、このオッサンは何だよ!? ガスマスク持参して、人の部屋で白いヤツ撒きやがったぞ! もう分かんねぇコトだらけで鼻血噴いちまうぞ!!」
 ――――ドゴッ!
「おふッ!?」
 弥富の腹に浜松の膝蹴りがめり込む。
「落ち着け、バカモノがッ! そんな根性では、この洋館から脱出できんぞッ!」
「うるせーよ。ハンターに首でも狩られてろ」
「とりあえず、このまま遺骸を放置しておくのは衛生的によくありませんね。夜中にこっそり運び出して、公園で焼却処分しましょう」
 郡山が優しい面でとんでもない事をぬかしやがる。
「ま、まずは警察に……って、いやいや、バカか俺! ええっと〜〜……おい、どうにかできねえのかよ!? オメー等が殺したんだろうが!」
「まあ、確かに。浜やんが撃ち殺したなァ」
「う、撃ち殺したァァァ!?」
「おうよッ! 眉間に一発くれてやったよッ!」
「そんな……だって、バーチャルだろ!? どうして現実に人が死ぬんだよ!?」
「オリジナルP・D・Sと禁魚がシンクロして発生する、副作用の一種じゃよ。大脳が強力な暗示を受けて、肉体にありえない命令を下す」
 土佐のジジイが部屋の隅でポチを食いながら答えた。
「ど、どういう事……だ?」
「知っての通り、儂等の姿は生身ではない。言わば『幻覚』じゃ。見る者の脳幹に強烈なストレスを与え、器質性疾患を引き起こす」
「要するに、この男性は突発的な脳血管障害により死んだ……というコトです」
 郡山はそう言って深見・父の死体の頭をつかみ、乱暴に水槽から引っ張り出した。
「ちょ、待て……と、いうことは……俺にも影響が出るのか!?」
「うんにゃ。さっちんの場合は全くもって安全や☆」
「……何でだ?」
「引きこもりで、貧乏で、社会的地位が無くて、大した技術も無い。おまけに友達いなくて、コミュニケーションとるの下手だからッ!」
 浜松がビシッと弥富を指差した。
「よ〜〜し、ちょっとこっちに来てくれるかな〜〜」
 ズリズリ、ズリズリ……
 浜松が物陰に引きずられていく。
 ――ゴシャ! ――グシャ! ――ベキッ!
「さて、話を続けようかな」
 弥富だけ戻って来た。拳に赤黒い液体を付着させて。
「さっちん……何か一犯罪おかしてへンか?」
「この部屋は治外法権だ」
 物陰から弱々しく腕が伸びてきてるし。血文字でメッセージ書こうとしてるし。
「ま、まあ……浜松さんが言いたかったのは、人畜無害な使用者には悪影響をもたらさないという事です」
「なるほど。で、一番の問題である、この死体はどうすりゃいいんだ?」
 男の正体は気にかかるが、中年オヤジの亡骸と生活する趣味は無い。追究は後にして、処理方法を検討しなくては。
「せやなァ……外に持ち出すのは危険やから、浴槽でバラバラにしてゴミ袋に詰めたらどうや?」
「却下だ」
「化学薬品で溶かしてみてはどうじゃろう?」
「却下だ」
「醤油とワサビを買ってくるのがベストだぞ〜〜」
「食うのッ!?」
「う〜〜ん、仕方ありません。出来る事なら関わり合いたくありませんでしたが、“アレ”に頼みましょう」
 郡山はそう言って土佐のジジイに目配せする。
「ふぅ、気乗りせんがのう……」
 ジジイが辺りをキョロキョロし始め、姿勢を低くして家具の下を覗き込みだした。
「おい、屋内でホームレスやるんじゃねえよ」
「違うわい! 人探しじゃ!」
「ダレもいねえよ。探すんならテメーの脳内を見ろよ。妖精・Aがきっと見つかるぞ」
「むッ、コレは!?」
 ベッドの下から大量のDVDを発見。
「うわ〜〜……男ってアホやなあ。一人暮らしなンやから、隠す必要ないやろ」
 出雲検疫官によって没収。
「違うのッ! 男って生き物は条件反射とパターンで生きてるのッ! つまり、生きる知恵の反復練習なのッ!」
 惨めに弁解する男が一匹。
「おッ、そこにおったか!」
 土佐がダレかを発見した。床下に続くパネルを全開にして。
 ガタガタガタッ!
 騒がしい。ジジイが床下でダレかともめ始め、口論が聞こえてくる。  
「こらッ、さっさと出てこんかい!」
「いやですぅ〜〜、もう真夏の天気で気温が高いんですぅ!」
「やかましい! 四の五のぬかすな!」
「大声出さないでください〜〜、子供達が怯えますぅ……」
「知ったことか、このクソ女が!!」
 オマワリさん、うちの床下にダレかいます。
「おい……一体、何がいるんだよ?」
「ボク達が最も忌み嫌うモノが潜んでいるんです……ニートにとっての両親、ロリコンにとっての児ポ法、マナにとってのカナなんです!」
 いや、三つ目はちょっと違うだろ。
「人間で言うところのインフルエンザみたいなモンや。処置が遅れると死に至る病気の一種や。『白点病』っちゅうヤツやねん」
「おいおいおい……つまり、相当な危険人物が床下に潜伏してるワケか?」
「せやねん。体中がメチャクチャ痒くなンねん! ジワジワと体液や血液を吸いよンねん!」
 禁魚達にとってはカナリの天敵らしい。
「あのさァ……ポチもそうだが、何で禁魚以外の連中まで擬人化されてんだ? 案外、適当なシステムなのか?」
 弥富には相変わらずP・D・Sへの疑念が尽きない。それなのに、床下から更なる不確定要素がこんにちはしようとしている。そんな窮地の弥冨をあざ笑うかのように、物陰から伸びた浜松の手が……

 ―――――――― 来週も・また・観て・ください・ねえ…… ――――――――

 ダイイングメッセージを残した…………ふぅがぁふぐッ。


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