すぐさま彼女を抱きかかえ、工場から大通りの道路によろよろとかけ出す。
血の匂いが鼻をかすめ、思考が薄暗くなる。
まだだ、大丈夫だ。落ち着け。正気を失なったら終わるぞ。
自分に言い聞かせて遠くのほうに見えるタクシーに手を挙げた。
タクシードライバーが幸い気づいてくれ、前にタクシーが止まる。
「すみません、ここらへんで病院ってありますか」
「あーあるよ。じゃあそこまで?」
「はい、お願いします」
ブーンという音と共にタクシーが進む。
速度が少し早い気がしたのは気のせいだろうか、いいや、ドライバーが気をきかせてくれているんだ。
数分後には目的地についた。
灰色の壁の病院、入口に入って窓口へ。
病院の中には人が少ししかいない。
窓口の中年の看護師が綾乃の変わり果てた姿を見て、激しくうろたえる。
「せせせせせ先生!!! 早くっ」
中年看護師が綾乃を抱えて通りかかった医者とともに奥の部屋へ走っていく。
無力さをその時、嫌と言うほど感じた。
ただ手を合わせて無事を願――――いいや、電話だ。
携帯にあいつの番号を打ち込む。店長だ。
ワンコールで出たのが余計にあいつの余裕さを感じて気分がわるかった。
「おい。 どういうことだよ、約束が違うだろっ!」
「バーカ」
挑発的な声に反応し、無意識で歯ぎしりをした。は? お前に言われたかねーよ。
「ふざけんな、クソが」
「あぁ?」
うわうわ、キレたこいつ。俺がキレそうなのに。
「クソって言ってんだよ、この卑怯者。約束が違う、綾乃をなんであんな……」
やばい、泣きそうだ。綾乃の痛々しい姿思い出したら。
「いい気味だ。だから、殺すのは楽しいのさ。これで2件目で今テンションマックスでやばいんだぁ。へへへはへっはえへ」
「………お、おまえ、前にもああやって人を…?」
信じられない、こいつの人間性を疑う。危害加えてなにをしたいんだ。
「あぁ、そんなこともあったねー。あの時は初めてやったから非常にキンチョーしたけど、味わった快感は生きてる感覚を忘れるぐらい素敵だった…!」
「おまえはなにを、したいからそんなことするんだ? それと、なんで綾乃の家がわかった? …もしかして俺のあとをつけさせたのか!?」
「楽しいからに決まってるじゃん〜快楽快楽ぅ。私は楽しい事には強欲なタイプなんだ〜。そうそう、あとをつけさせたんだ〜」
へらへらと笑いながら悪びれもせずに言う。怒りを通り越してあきれるなんて・・・・・。
快楽ってなんだよ…。
受話器から流れるあざ笑う声。バタバタと看護師は動き回り、奥の部屋で人がでたり入ったりしている光景。俺が真っ直ぐ家に帰ってれば綾乃に危害はなかったという罪悪感。
――――視界が黒でいっぱいになった。
ツーツーツーッ
あ、きりやがった。まだ話し。
背もたれに体が吸い込まれ深い眠りに落ちていった。