あたしはただ、次々とちぎられていく咲のノートを見つめていた。
3人のクラスメートは高い声で狂ったように笑いあう。
その姿は、とても不気味。
人間とは言えないようなものを感じた。
今思えば、止めることすらしなかった自分が言えたものじゃないけれど。
―――――。
あたしは過去を話していた口を閉じた。
雨は相変わらず降っている。
矢木矢さんは畳の上に寝っ転がったままでどうやら寝ているよう。
そっとあたしは畳から立ち上がり矢木矢さんに気づかれないように部屋を後にしようとした。
「香奈、話はそれで終わりか?」
だが、矢木矢さんの声に行く手を阻まれた。
瞬間的に体がぴくりと跳ねる。
「起きて、いたんですね」
「ああ」
「まだ雨降ってますね」
「ああ」
「雨ってなんかいいで・・・」
「――おまえ、俺にちゃんと理由を話すって言ったよな。あれは嘘なの?」
鋭い視線が突き刺さる。
「すみません矢木矢さん・・・あたしは、やっぱり怖いんです。この話の続きを言うのが怖くて言ってしまったらずっと何か強いものに引きずり込まれてしまうんじゃないかって思って・・・」
話をしていくうちに過去を掘り返していくのがどんどん怖くなっていた。
「つまり、話したくないわけだ」
「・・・はい」
「おまえって、本当正直な奴だよな」
フッと矢木矢さんが微笑んだ。
いきなり、なんだ。
訳がわからない。
「・・・え?」
「初めておまえが俺に会った時を覚えてるか?」
あの日―――。
「ちゃんと、覚えていますよ」
あたしが自殺をしようとした日。
その時に矢木矢さんと出会って、早々に破廉恥発言されて。
『水玉かっ』って矢木矢さんが・・・。
「ふ、あははは!」
「どうした」
「あ、いや・・・矢木矢さんと初めて会ったときのこと思い出したらおもしろくて。笑うところじゃないですよね」
どうしよう、笑っちゃう。
あたしはあんなに切羽詰ってたのに下着の柄って!
「・・・矢木矢さん、あの時あたしを助けてくれて本当にありがとうございました」
「別に、香奈が助けてって言ってたから助けただけ。行ってなかったらほっといてたかもね」
血の気が失せそうだ。
矢木矢さんはそんなあたしを見て笑う。
悪趣味は変わらない。
S男だ。
「その元気があればまたさっきの話の続きができるだろ?」
「え・・・・・・」
怖い。
続きをしゃべれるのかなんて。
「早く続き言わないと俺、行っちゃうよ」
そう言って矢木矢さんは壁際にある戸棚から白色の粉薬の入った透明の袋を取り出した。
「・・・なんですか、これ」
矢木矢さんはハッキリと言った。
「俺があの世へ行く道具」