小説『君が死んだ日【完】1000hit達成!!』
作者:ハル()

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香奈は話し終えるとフゥっと小さくため息をして目を細めた。

「あたしが引き金を引いたんです。本当、バカだったなー」

笑みを浮かべながら、というか苦笑いを浮かべて泣くのをこらえているなこれは。
と、思ったが口には出さないことにした。

香奈の話を聞いていて思ったことがある。
これはあくまで俺の見解なので宛にはならないだろうが。

香奈の友人を悲惨な結末へと導いたのは香奈のその行動が大きな原因ではなく、香奈の友人の精神状態に問題があったのではないだろうか。
話によれば友人は長い期間クラスメートらに責められていたとのこと、その時点で友人の精神状態はボロボロになっておりいつ崩れてもおかしくはなかったのかもしれない。ずっと持ちこたえられたのは支えがいたから、とでも言おうか。
そうなら友人にとって香奈はかなり大切な存在だったはず。
だが、イジメのリーダー格に「香奈はオマエのことが嫌い」とまえぶれなく言われ、その時に酷いショックを受け精神に多大なダメージをくらった。

そうなるとマイナスの思考が強く働き、言葉の裏や深いところを探ってしまった可能性がある。
もし探ったとしたならばこんなものたちが友人を包んだのだろう。


「お前にはもう居場所などない」「誰もお前の事など好いていない」『お前は一人ぼっちだ』


このようなことばかり浮かべば人というのは塞ぎ込みやすくなる。または塞ぎ込む。

「自分には居場所はない、唯一の支えを失ったわけではないが消えたい。消えたい。もうこれ以上は」

多大なダメージを受けた精神は崩れ、その作用で友人は。
と俺は考えた。
もしかするとこの友人は精神の弱い、傷つきやすいタイプだったのかもしれない。

まとめるとこうなる。
友人がそうなった理由は彼女に酷な関わりかたをしていたクラスメートのせい。
それを止めなかった香奈も悪い。

彼女を自殺へと追い込んだのはさきほどのイジメのリーダー格の言った発言だ。
だが他にも追い込んだものがある。
それは―――状況。

クラスメートの冷たい笑い声、精神状態が酷く危なかった事、前触れのない多大なダメージ等が上手く組み合わさってしまった状況が友人を追い込んだ第二の理由と言える
ただ、俺はこう思う。

その友人はそんな危ない状態の中でもイジメのリーダーの嘘を信じず香奈を信じ、最後までずっと香奈を信じ続けていたのかもしれない。
それは、彼女らの固く結ばれた強い友情のお陰なのだろう。
俺はそれが羨ましいと無意識に思っていた。

まさか、大学で習っていることをこんな場面で使うとわな。

(どうやら今度は俺が加奈を助ける番らしい)


香奈は苦笑いを浮かべている。見ていて痛々しい光景だ。
たまらず俺は彼女に自分のさきほど考えた見解を伝えることにした。
香奈の表情が少し痛々しくなくなっている。


話を伝え終えると彼女はこう言った。

「もし、そうだったのならやっぱりあたしは酷い奴。でもこんな奴を最後まで信じてくれた咲をあたしはずっと忘れたりなんかしない。毎年、咲に会いに行って感謝してるって言いたい」

強い意思が目の中で揺らめいていた。
その様子を見てホッとした俺はずいぶん人間らしくなったなと自画自賛していた。

(ナルシストかよ、俺キモいわ)

軽く舌打ちをしたら香奈が少し驚き横目で俺を見ていたがそこは、スルー。
舌打ちって軽く独り言の類に入るなと、考えているとバスの窓から見える風景が見覚えのある姿に変わっていたことに気づく。


「降りるぞ」

「はい」


その時、少しだけ俺は震えていた気がする。
俺だって怖い。


(綾乃に会いにいくのが一番怖い)

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