小説『君が死んだ日【完】1000hit達成!!』
作者:ハル()

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―君が死んだ日―


バスを降りてから約10分ほど経つ。
行き着いた場所は森のように植物が生い茂る霊園。
綺麗に手入れされている花々が霊園の門をくぐると待っていたと言わんばかりに自分達を出迎えた。

それにしても・・・今日は温度が低いのだろうか、と肌を伝わる感覚を感じる。
冬並みに寒いというわけではない。言い表すなら、雨が止んだ後のあの湿気の多いヒヤリとした冷たさ。
深呼吸をすると湿気の多い酸素が口の中に入り入り浸る。
何度も呼吸をすれば空腹とは正反対の感覚に陥りそうだ。

肩にかけてきた手提げの中からあるものを取り出す。
それは歪みなく、透明な包みにピッチリと包まれている一輪の白いガーベラ、香奈にそれを渡した。

「矢木矢さんが珍しく手提げを持ってきた理由ってこれだったんですね。白い、ガーベラ・・・」

香奈はガーベラを見て、悲しげにそう呟いた。今度はどうした。


「・・・赤よりはよかっただろ。常識だけどな」

「常識中の常識ですよっ! ハハハ・・・咲、自殺した友達が好きだったんです白が」

(なるほど・・・)

「綾乃は桃色が好きだったなそういえば」

目を潰ればすぐに記憶がよみがえりそうだ。


「そっか、だから菊の花じゃなくてガーベラをチョイスしたんですね! 菊はピンクがないから」


「菊は桃色もあるけど? え、知らなかったわけ? 菊なんかよりガーベラの方が綺麗だから選んだだけ、てか、綾乃が好きだった花だったから」


香奈の声が1トーン下がりだす。

「綾乃さんのことずっと大好きなんですね。矢木矢さん」

「まあな」

「こんなとこで言うのはおかしいんですけど」

「なんだよ」




「・・・あたしは絶対に綾乃さんには勝てないですね」



悲しい、悔しい。そんな表情。
男の俺から見てもわかりやすい言動。
元はと言えば俺が曖昧な態度を示したままだったからだ。


「言っとくけどお前は誰にも負けてないから」

「・・・・・・っ」

俺の何かから何かを察知したのか香奈は切なそうに目を細める。
それを見て俺は香奈の目をまっすぐ見て、今伝えられることを言葉にしようと思った。


「やっぱり俺は、この先ずっとアイツのことを引きずると思う。そんな気持ちでお前を、そういう対象で頼ったりすればお前が絶対キツイ思いをすると思う」


――――――――。


「だから、お前の望みに答えられない。香奈」


言い終わった直後酷い脱力感が自分を襲った。
香奈は、泣くだろうか?だとしたら悪いな。


「そうですか・・・でもあたし、当分あなたを諦められそうにないですけど、でも」

やっぱり俺の予想とは正反対だな、お前って。


「あたしとこれからも友達でいてください」

晴れやかな笑顔を浮かべてそんなこと言えるなんてよ。
本当、予測不可能で・・・強い、奴。

「ああ、そうだな」

俺はちゃんと笑えて言えただろうか。
それはわからないが香奈は俺の返事を聞いて満面の笑みを浮かべる。

(―――香奈は、笑ってるほうがいいかもな)

気がつくと湿気が肌にとけこんでいて汗をかいているようになっていた。
そろそろ次の決着をつけに行かねばならない。

菊の花はなく、ガーベラが2輪。
彼は桃色のガーベラを、彼女は白色のガーベラを。
大切な人、愛する人に会いに行き決着をつけにゆく。
少しばかりの希望と大きな戸惑いを抱えて一歩一歩大切な人へ歩を進める今。

先で待っているものは闇か光か。




白色のガーベラと桃色のガーベラ。


「――――――咲、」

「――――――綾乃、」


決着のラインへ

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