小説『君が死んだ日【完】1000hit達成!!』
作者:ハル()

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香奈と矢木矢は大切な人の墓へと歩を進めた。
2人の後ろ姿はどこか不安そうでそれでも前へと足を動かす。

きっと彼らは知らない。



自分たちの少し後ろで彼女たちが晴れやかに微笑んでいることを――。

丁度いいサイズになった制服を着た2つ結びの少女。
赤茶色の髪を風になびかせている大学生くらいの女性。

きっと2人は知らない。
こんなにも近くで大切な人がそばにいたことを、死んでもなお。

2人が出会った日も、辛いことがあった日も、笑ったり泣いたりした日だってずっと彼女たちはそばにいた。
助けることも呼びかけることも出来ず、どれほどもどかしかっただろうか。

彼女たちは先へと行く2人の後を追う。
そして、自分たちの墓の前に2人が着いた時、少女は香奈の元へ女性は矢木矢の元へとより近くに寄った。
そのことを香奈と矢木矢は知る由もない。
ただ、自然と涙がこぼれ始めていた2人。


「咲・・・お墓ってこんなに冷たいんだね、寒くしてない? 咲はよく風邪ひいてたからなあ。ハ、ハハハァ・・・」

白いガーベラを墓のそばに置いた瞬間、あたしは泣き崩れ、涙に埋もれた。
それくらいぶわっと目から雫が流れ落ちたのだ。袖がぐしょぐしょで重くて気持ち悪い。
鼻がツーンとして痛くなるぐらい雫は大きな粒へと変わる。



少女も、泣いていたなんて彼女は知らない。
泣き崩れる香奈を後ろでずっと見ている今は亡き友人の魂。
その少女の魂も涙を流していた。
2つ結びの髪が風になびいて横に揺れる。
友人の魂は音にならぬとは知っていても声を出す。

『香奈、ずっとあなたを見てたんだよ。見えないだろうけどずっと、いつでもそばにいて見守っていました。香奈が泣いたとき、迷ったとき、ただ見守るしかできなかったんだ。ごめんね。香奈は私に最後まで嘘はつかなかったね。嬉しかった。それなのに突然逝なくなってそれで、嫌な気持ちにさせてごめん。私が香奈に傷をつけちゃったんだね・・・。でもあなたにはずっと傍で支えてくれる人がいたね。その人のおかげで今の香奈がいる、私はそう信じてる。今持ってる強さを大事に、今を生きてください私の分まで。また香奈に会える日が来るかな?その時まで・・・さよならっ! 香奈』

友人の魂は告げ終えたあと、青の空と透明な空気の間で交差して緩やかな風と共にどこかへと消え去ってしまいました。
その緩やかな風の残風が香奈の頬をかすめたのですが、香奈はヒックヒックと声を押し殺して泣くだけ。友人がさっきまですぐそばにいたなんてわかりません。
香奈は潤んだ目を袖でゴシゴシと拭ってこう言いました。


「咲、またどこかで会おうね。約束だよ」


その言葉が風に乗って宙を駆け抜けるとヒュッと風が擦れる音がし、まるで友人の魂が返事をしたようにも聞こえるのでした。


香奈は友人の墓の前で手を合わせ、そっと目をつぶりその少し後立ち上がり、友人の小さな墓を後にした。

彼女は友人の分までこれからを精一杯生きるのでしょう―――。



白いガーベラの花びらが一枚、青の空に吸い込まれるようにヒラヒラと蝶のごとく飛んでいった。

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