矢木矢さんは気だるげに頭をかきながら目を細めている。
寝起きだからまぁそうなりますよね。
「…君ってさー 今週の土曜日、予定ある?」
突然なんだよ。あなた。
「ないですけど何か」
「俺とマジックショー見に行け」
………
(´△`) えっ?
いきなり何。一体何。
なぜそうなる?
つか、なぜマジックショー?
ここは定番の遊園地とかさー…
いや、それじゃあデートになっちまうじゃないか。
ちょっとこの人とデートするのはきつい。疲れそうだし疲れそうだし。
何よりこんなイケメンと一緒に歩いてたらいろいろ差がついちゃうし。
顔とかカカオとか、違う。顔とか特に顔とか。
「…なぜマジックショーなんですか?」
「そのマジックショーのマジシャンにタダ券もらったから」
「マジシャンの知り合いって… そもそもですね、そういうイベントは仲のいい友達とか彼女とかと行くもんですよ。なんであたしなんですか」
「友達はマジックに興味ねぇ。俺、女いたら君なんて誘わない。以上」
ちょっと打撃受けたんだけど。傷できたんだけど。心の傷なんだけど。
ズバズバいいすぎな気がするんだけど。
…でもマジックショー行きたい。行きたい!!!
生で見てみたいとは前から思ってたんだよ! キャー
「矢木矢さんっ! あたし行きますよ! 絶対行きますからっ! 行きますからね行きますからねっ。はいっ予約しましたからね。当日ドタキャンとかなしですからねっ!」
「ちょっと、いきなりがっつかないでよ。怖いよ君。君女じゃないよね?女の端くれにもおけなくね?」
おいっ あたしをなめるな。
「うっせー破廉恥ヤギ! あたしはピチピチの女子高生だこのやろおおォォ!!!」
「うわー何この娘。マジ引くねー。この券がどうなっても良いわけ〜?」
「はっ!?」
矢木矢さんの手には2枚の券が握られていた。ピラピラとゆれるその券はまさしく『無料券』と書かれており、エキゾチックなデザインがプリントされている。まさしくマジックショーの券!!
「では、やぶっちゃいましょう」
「待てまてっ!!!切るなっ。切るんじゃないっ!!!!!」
「ククッ じゃあ今週の土曜日に行こうか?」
「行きますっ! うわー楽しみだー…あぁ…?」
「どうしたの?」
「矢木矢さん…今週の土曜日って明日じゃないですか」
「そうなんだよー。そこんとこよろしくー テヘッ★」
最後のテヘッ★ってなんだよ。あたしより可愛くできてるじゃないああぁぁあ!!
あー悔しい
「まぁ、わかりましたよ。明日この駅で待ち合わせすればいいんですよね」
「はい。そうそう」
「あたしもう帰りますよ」
「ん。じゃーねー」
家へと帰る帰り道でトボトボと歩きつつ、マジックショーの無料券を上にかざしながら見てみる。
エキゾチックなデザインで、、あれ、軽いゴスロリみたいなのを着てる女の子の絵もかいてある。
…なんか見たことがあるような。
裏を見てみると、『不思議な世界へようこそ♪ 夢の国への鍵を持って我がワンダーランドへ入ってみてはいかがかな? 不思議の国のアリスがあなたを待っています』と、書いてあった。
どうやら不思議の国のアリスをコンセプトにしているマジックショーらしい。
ますます楽しみだ。なんだかウキウキしてきた。早く明日になってほしいな。
『アリスがあなたを待っています』
そんな言葉が頭の中をリフレインしていた。