結局、あたしはマジックショーが終わるまで舞台を見れなかった。
…全く。
腕時計の短針は6時を指している。
窓から降ってくる光はオレンジ色。
もう、夕方だ。
お客さん達もちらほら帰りだしてる、あたしももう帰りたい。ここから今すぐ出たい。
でもあの人が話しかけてきた。
「矢木矢っ もう帰るの?」
幸也さんが。
そして彼の隣には美しいアリス、アシスタントがいる。
見れば見るほどその美しさは増していくような気がした。だがそう思うのもつかの間に。
…あれ、え、あたしに手招きしてる?
美しい美女がなぜかあたしに手招きしていた。
細い、白い指がしなやかに上下する。
「行ってこいよ」
矢木矢さんが耳元であたしにささやく。
「えー 女の子同士で何するの? 俺も混ぜてよ〜」
ふざけ調子に幸也さんが寄ってくる。嫌だ。
「あんた邪魔」
ハスキーな声が突然した。声の主はなんと、美女アシスタントだった。
美女のその言葉に幸也さんは「わかったから怒らないで」と、たじたじだった。