「…知ってます」
美女の問いに弱弱しく答える自分。
あたしを見つめる美女。
なんて、不思議で気まずい状況なのだろう。
青い瞳はよりいっそう美しく感じる。
―――そして、美女は語りだす。
「幸也の女癖のワケは彼の子供の時のトラウマのせいなの」
゛理由゛というやつを。
トラウマ・・・。
「幸也はね、家族の愛情を知らないで生きてきたの」
「え?」
愛情を知らない?
「ずっと、幸也は親に虐待をうけていてそれを見かねた親戚の叔父さんが幸也を引き取って育てたの。今のマジシャンの道があるのもその叔父さんが幸也にマジシャンを教えてくれたかららしけど・・・」
「そうだったんですか、じゃあ幸也さんは家族の愛情を知らなかったから―――」
「まあね、香菜ちゃんって案外鋭いんだね! びっくり」
美女はニッコリと笑いながらあたしの手をつかんでまるでとてつもなく感激をしたようにそう言った。なんだか照れる。
「でも幸也の女癖は私も直したほうがいいと思ってる。それに―――――私、幸也が好きなの」
頬をポッと染めて美女は確かに言った、幸也さんが好きと・・・よりによってなんであなたが?
あたしの頭の中はきっと今、?マークがビッシリと敷き詰まっているだろう。だってこんなにしっかりとしててキレイな人がなんで幸也さんに恋をするんだろうと不思議に思う。数秒自分の口が開いてることに気づかなかった。
「あの、なんで好きになったんですか」
真面目に聞いた。
「私にもよくわからないけど気づいたら。初めて会った時は嫌いなタイプな男だったけどだんだんどういう人かわかっていったからってのもあるのかも」
美女はまた頬を赤らめて「秘密ね!」とあたしの肩を叩いた。
なんだろ、この人。女のあたしですらドキドキする、ああでもけっしてレズになるわけじゃないからねっ!
この人と幸也さんはアシスタントとマジシャンという支えの関係じゃなく、心と心で深く支えあっているのかもしれないとあたしは思った。
そして意を決してあたしはまた聞く。
「・・・その、幸也さんが他の女の人と一緒にいるのって辛くないんですか?」
と。
そして彼女は答える。
「そんなに思わないわ、不思議ねっ」
おどけ調子に言う彼女は笑顔で答えた。
でも少し、悲しそうだった。
そんな彼女を見て、あたしは切なかった。
だって切ない。
悲しい。
「もー そんな顔しないでっ!」
ニコニコしてる彼女は何よりも美しかった。
強い人。
「すいません」
「香奈ちゃん、あたしは気にしていないの。だから大丈夫」
白い、細い手があたしの頭をなでる。
優しい。暖かい。そんな温もりが体をつたう。
「これ、あたしの名紙」
細い指からあたしに渡される名紙。水色の白いチェックがついたデザインが彼女らしかった。
「…アリス・パトラー」
「あたしの名前」
「本当にアリスだったんですね」
「うん。自分でもすごい偶然だと思う」
笑顔でそう答えたアリスさん。
…アリスさんにはやっぱり笑顔が似合う。
悲しい顔はしないでほしい。
笑顔でいてほしい。
―――――――――――。・。・。・。・
「ただいま。矢木矢さん」
「遅い」
「すいません、話しまくってました。あー楽しかった」
「俺は、、疲れた」