「――小野…さん?」
「はい。そうです」
栗色の毛に無愛想な態度。
仕事で帰ったはずの小野さんがいた。
小野さんは泣いているあたしを心配そうに見つめる。
だめだ。心配かけちゃ…。
「大丈夫です。あたし、どうもしてません」
「…じゃあ、なんで泣いてるんですか?」
その問いかけは困る。
何も言えないよ。
「―――…」
「―――…」
小野さんの問いかけに答えられず、黙り込む自分とそのあたしに困り果てる小野さん。
2人の間で沈黙が続いた。
「(帰ろう)」
あたしは沈黙をやぶることなく家に帰ろうと体を出口の方向へ向けた。
小野さんに背を向けた。なんて失礼だったんだろう。
小野さんは今、どんな表情をしているのだろうか? こんな自分をどう思っているだろうか?
疑問は出てしょうがなかったが振り返れなかった。
きっと振り返ったら気まずいと思った。
「―――――髪、切りましょうよ」
「(え?)」
後ろを振り返れば真顔でそう言った小野さん。
「(髪を切る!?)」
突然の展開に戸惑うのも無理はない。
「これから時間ありますよね。俺に髪切らせてください」
「え、でも…」
「俺に香奈さんの時間を少しだけ貸してください」
小野さんの目が真剣な目になっていた。
先ほどの無愛想な彼はもういなかった。
結局あたしは、小野さんの真剣さに負けて髪を切ってもらう事にした。
だが、一つ問題がある。
あたし一応ショートなんだけど! 髪の毛肩につくかつかないぐらいなんだけど!!
「小野さんっ! やっぱりあたしの髪をこれ以上切ると間違いなく坊主になるからやめてくれませんか!!?」
ものすごく必死に頼んだ。髪は女の命だっていうし。
「―――何言ってるんですか? 前髪だけ切るに決まってるじゃないですか…。そんな事もわからないんですか」
「えっ あっ はいっ」
もしかして小野さんって…小野さんって…
案外毒舌な人!?