小説『君が死んだ日【完】1000hit達成!!』
作者:ハル()

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―相愛―



ヘアサロン・エスペランサ

大きな美容室の看板が目にはいった。


小野さんは美容室の入り口へ続く階段をかけ上がり、ドアを開けて中に入る。
あたしも続けて入った。

「わあーっ」

美容室の中は広々としていて天井にはお洒落なシャンデリアがきらびやかに吊るされている。
設置してある家具も少なめで客が待つ席と思われる薄緑色の長ソファと一人がけソファ、肌色の壁には鏡がついていて開放的な雰囲気。
美容室というのはこんなに綺麗な場所だったか?と自分の中に疑問がわいた。

「ぼーっとしてないで早く座ってください」


突然言われた鋭い声にハッ!とした。小野さんが不機嫌そうな表情でジーーーッと腕組みをしながらあたしを見つめているのだ。
早く座れよ、と今にでも言いそうなその表情にあたしは蛇に睨まれる蛙のごとくすぐに鏡の前にある椅子に座った。


「じゃあ、前髪切りますね」

小野さんの言葉を合図に自分の毛に水がシュッシュッとかけられていく。
それと同時に美容室の中にはなぜかあたしと小野さんしかいないという事実にいまさら気づく。

「あの、お客さん来てませんけど…」

「今はまだ開店してませんからね」

水になじんだ毛にくしが通る。


「今日は俺が店を開ける日だったので」

「あぁ そうだったんですか」

「えぇ」


くしの通りを邪魔する絡んだ毛もなくなり爽快な具合でくしが毛の根元から下へ行き来する。
あたしは他人からこういうことをしてもらうのがなぜだか好き。
小さいころはよく姉に髪をとかしてもらっていた。

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