矢木矢side
「……くっ…」
俺なにしてんだ。
いい歳なのに泣くとか。
ましてや女に抱きつくとか。
いつもの俺じゃない。
「矢木矢さん、傘さしましょう? 雨で風邪ひきますよ」
こげ茶の髪をフワフワ揺らしながら心配げに言う香奈。
まさかあいつに俺が慰められるなんて、思いもしなかった。
いつの間にあんなに強くなったんだ、あいつ、初めて会ったときは見るからに弱そうだったのに全く、成長ってのは怖いねぇ。
「そうだな、帰るか」
地面に転がった傘を拾いあげると同時に鼻に寒風があたってつんとする。痛。ふざけんな。
軽く舌打ちした。空気よめよ風…!
「―――どうかしました?」
「いや、べつに…」
鼻が痛くて不機嫌になってたなんて誰が言うかって。
言ったらそいつ相当なマヌケだろ。
「矢木矢さん…もう少し右によってくださいってば!」
そういう香奈の右肩は雨で濡れている。
「傘持ってないくせに文句言わないでくれる?」
「はい!? これは文句じゃないし!」
「じゃあなんなの?」
「―――う…」
香奈は俺との言い合いに負けて悔しそうだった。口をへの字にしてむっとしてる。
嗚呼、からかいがいのある奴だな〜。やっぱこいつイイわ。おもしろい。もっと俺を楽しませてよ。
…こういうことで快感する俺ってやっぱひねくれてるなぁー。
まぁ、べつにいいや。