―裏の過去―
「あー やっと着いた」
「矢木矢さんのせいであたしの肩、もろ濡れてるんですけど!」
「――あっそ」
香奈が後ろでなにかぎゃーぎゃー言ってるが無視した。あー何も聞こえないんでー。
茶色の横引きのドアを引くが雨の湿気のせいかいつもよりすべりが良くない。
ガッタガタ。この家ぼろいしなー。
ドアを引き終わり、家の中へ俺と香奈は入っていった。
いつものように机が置いてある畳の部屋へ入る。藺草の匂いが半端ない。嫌いじゃないけど。
そんな事を思いつつ色あせた座布団に腰を下ろす。
外を見ればまだ雨が降っていた。その証拠に雫の波紋が池を滑っている。
「あの、矢木矢さん」
「なに?」
香奈のほうへ視線をむけるとあいつはなんともいえぬ表情をしていた。
なにか、考えているように少し見える。
そして香奈の近くにある机、その机の上にはあのアルバムがのっている。
「やっぱりなんでもないです」
「なにそれ」
「気にしないでください」
「気になる」
「ふ、ふざけないでください」
「今言おうとした事を言えばふざけないけど?」
「――――っ!」
香奈は驚きと戸惑いの混ざった複雑すぎる表情を浮かべ、無言。
無言無言無言無言無言―――――――。
「えっと」
お。
「…やっぱりなんでもないです」
「いや、そこは言ってよ」
「…」
香奈は、切なげな目を俺に向けていた。
なんでだ。
そしてその目で俺を見た後、その目で机の上のアルバムをそっと見る。
その動きを香奈は2、3度くりかえした。
さすがにここまでくると俺にもわかってきた。
香奈が何を言いたいのか。
わかった。