小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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「っで、彼は日沼君。」

そう言ってあすかが最初に指差したのは以前自分がここに来た時に初めて会った二人の男女のうちの一人、あの日あすかと行動を共にしていた薄紫の髪が特徴的な少年だった。

彼は嫌々あすかの命令に従って必死のネタを披露していたが全く受けていない様子で、半泣き半笑いでもう死に物狂いでやっている。

「ふぅん、あはぁん…!!」

その様子を冷たい視線で見つめていたあすかは少し口を閉じて両腕を曲げて上下に動かすと残念そうに呟く。

「ま、見ためどおりちゃらんぽらんだけどやる時はたまにやるわ」

「って、フォローになってないぜ!!」

彼女の言葉に全力で抗議した彼だったが虚しくもすべて素通りされてしまう。

「彼は松山君」

「無視かよ…」

次にそう言った彼女は自分の隣にいた大男を指さした。見るからに横綱のような巨体で横にいるだけで圧倒されてしまう。

しかし、知れでいてとても謙虚そうな顔立ちからなんとなくだがこの人には敬意をもって接しなければならないと直感した。

「過去の経歴を調べたところ、若くして横綱になって活躍した天才相撲少年だったらしくみんなは敬意をもって接しているわ。」

「よろしくな」

「あ…うん」

松山と呼ばれた男は笑顔で自分と握手を交わしてくれた。

あすかの言葉が続く。

「彼は大村君。特徴がないのが特徴ね。」

さらっとひどいことを言って流そうとした彼女を余所に指差された少し小柄な少年は自分の後ろに隠れるように立っていた。つい振り返ってしまうと目が合ってしまい少しきまづかったが、小柄な彼は笑顔を作って言ってくれた。

「ようこそ、抗う者(アライブ)へ」

どうやら見た目によらず性格も優しそうだ。

しかし、その時。

「カモーン!レッツダンス!!」

突然割り込んできたのは後ろで音楽を聴きながら足と指を使ってビートを刻んでいた赤鉢巻を頭に巻き付け、日本語を一向に話そうとしない謎の男。

「い、いや踊らねぇよ!?」

ついリズムに乗って突っ込んでしまったがどうもこいつといるとペースが崩されてしまようだ。
リズムに乗ってエグザイルまではじめてしまう彼を見て少し後ずさりしてしまったが、どうやら悪気は全くないらしい。

すかさず、あすかがフォローに入った。

「この人なりのあいさつよ。皆DJと呼んでいるわ。本名はだれも知らない謎の男よ。」

「…そんなやつが仲間でいいのか?」

当の彼女はそんなことお構いなしにどんどんメンバーを紹介していく。

「いちいち知的にメガネを持ち上げて話すのは高杉君。本当は馬鹿よ。」

背後にいた彼はメガネを股持ち上げると一言。

「よろしく」

知的そうなバカのメガネがきらりと輝いた。

「…うっ」

「で、さっき私に殴られてあそこでまだ転がっているのは渦巻君」

あの木刀男のことを言っているらしい。

「っで、さっき爆発で飛んでったのは小鳥遊さん。保健室を爆破したのもおそらく彼女よ。」

「やっぱり…」

そこであすかは少し移動して、ソファーの辺りにまで来るとそこで座っていたピンク色の髪をした少女を紹介した。

「こっちに座っているのは岩崎さん。狙撃部隊のリーダーよ。」

ソファーで座っていた少女は黙ってこちらを見つめると薄く笑ってくれた。

「よろしく」

そう言葉を最後にこれ以上何も言わなかったが、クールで冷静と言った雰囲気を漂わせている。

「あそこでずっと寝ているのは栞さん。たまにしかしゃべらないけど、戦闘部隊のリーダーよ。」

最後に指をさした先には部屋の隅でマフラーを首に巻いて立ったままかわいらしく寝ている黒髪のロングヘヤ―の少女。

雪女のように肌は白く見方を変えれば忍者のようにも見える。

「あと、ここに入ないだけ抗う者(アライブ)のメンバーはあと何十人と校内に潜伏しているわ。」

こうして、長い自己紹介および説明は終了したが、まだ気になることが一つあすかには残っていた。

「そういえば、あなた名前は?」

そこで少年は初めて気づいた。この世界に来てまだ自分の名前を一度も言っていないこと。そしてなにより、自分の名前なんて考えもしなかった。

「あ、ああ。え−と俺の名前はき…き…」

そこではっきりと思いだした。

「き…霧斗」

「上は?」

不思議とその名前だけが頭に残っていてそれ以外のことは思い出すことが出来ない。

「思いだせねぇ…」

「安心しろ!ここにいるやつらは全員お前と同じだ!!」

そこで薄紫の髪をした少年、日沼は軽く自分の肩をポンと叩く。ここに初めて来たときから何も思い出すことが出来なかった。しかし、どういうわけかほかのみんなも自分と同じらしい。

「おい、制服渡さなくていいのか?」

不意に大男の松山がそんなことを言った。

「あ、そうね。忘れてた。」

霧斗はすっかり忘れていたが今の自分の格好は白いTシャツなしの黒いブレザー一着をただ羽織っているだけと言うかなりパンクな恰好になっている。

だがそこで少年に疑問が浮かびあがった。

「そういえば、なんで俺は…その、お前たちとは違うんだ?」

「あんたが違うんじゃないわ。私たちが違うのよ。」

そう言いながら校長机の椅子を引いて勢いよく飛び乗った。足をそのまま机に伸ばしてクロスさせると腕も同時に組み直す。

「それは模範生の格好。」

確かに自分と彼らの制服の格好は全くと言って別物だ。

「これが私達クラス・ALIVEの格好ってわけ」

あすかの制服の肩には大文字で『ALIVE』と刺繍されていた。

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